『ショタコン・アスカさんの遠大な野望・2』

−ユニゾン編−

by イイペーコー



 ざわっ。ざわ、ざわ――と。
 市立第壱中学校2年A組のクラス内はただならぬどよめきと、ある種の張り詰めた空気が漂い始めていた。

 転校生がやって来た。
 それもクォーターの美少女。
 その情報に歓喜した男子生徒は多かった。

 事実、その転校生の少女が初めて教室へ足を踏み入れた時は歓声があがった程である。
 端麗なその容姿に加え、紅茶色のサラサラとした長い髪、澄み切った蒼い瞳、スラリと長い足、モデルのような細いウエストライン等々、美辞麗句を並べれば原稿用紙の2〜3枚ぐらいはすぐに埋まってしまいそうな極上の美少女である。
 男子生徒達にとってみれば、落ち着いて静観しろという方が無理な注文であろう。

 しかし、担任教諭に促され、彼女が自己紹介をし始めた頃から、その空気は変わり始めていた。


「碇アスカです。よろしくお願いします」


 屈託もなければ照れた様子もない。
 堂々と――成長著しい膨らみを有する胸を張って告げられた彼女の自己紹介を耳にして、自身の席から床に転げ落ちた少年がいた。

 身の丈は120cmぐらいであり、とても中学生には見えない。
 彼の身長に合わせて特別にあつらえられ、周囲の男子生徒達と同じ学生服を身に付けているお陰で性別を間違えられる心配は無かったが、見ようによっては幼い女の子が男装しているようにも思える程であった。

 その少年の名は碇シンジ。
 訳あって、小学校の1〜2年生ぐらいの姿をしているが、その実は正真正銘の14才の少年である。

 盛大に椅子から転げ落ちた拍子にしたたかに腰をうちつけてしまい、苦痛の為に顔を歪めながら口を開くシンジであった。


「アスカお姉ちゃん、ナニを言ってるの!」


 本当の名前は“惣流・アスカ・ラングレー”でしょ!――と続けようとしたシンジであったのだが――。


「“お姉ちゃん”――って、まさか碇の?!」

「いや、確かに“碇アスカ”って名乗っていたし」

「なんだ碇の奴、急に身体が小さくなったかと思ったら、今度はお姉さんの登場かよ」

「しかし、一応は碇って14才だろ?
 同級生でお姉さんっていう事は双子なのか?」


 ――と騒ぎ出す生徒達。
 その内、ひとりの女子生徒が手を上げた。


「しつもーん。
 碇アスカさんは碇シンジ君と、どんな関係なんですかー?」


 すると、待っていました――と言わんばかりの得意げな表情を覗かせて、饒舌に話し始める転校生の自称碇アスカさんであった。


「アタシとシンジくんとの関係が知りたいの?
 仕方ないわね、特別に教えてあげる。
 そう――それは禁断であり、それでいて甘美かつ究極のカ・ン・ケ・イ。
 某国の陰謀と暗躍から逃れるために、離れ離れになってしまったしまった義姉と義弟。
 運命とは実に重い十字架をアタシ達に背負わせたの。
 “アスカお姉ちゃんっ”
 “シンジくんっ”
 ――互いに求め合うココロとココロ。
 嗚呼、それなのに、アタシ達を待っていたのは厳しい試練の数々だったわ。
 そう、試練のオリンポス山が待っていたの。
 そしてアタシを待ち構えていたのが現代に蘇った十二神で――」


 あまりにも長過ぎる説明故に、中略――である。
 悲しいかな、オタクのサガとでも言おうか――日頃は自身の趣味については直隠しにする傾向にあれども、琴線に触れる部分に話題が及ぶと、ついつい雄弁に語り過ぎてしまう模様である。
 しかも、今回はシンジとの関係がより深いものであるという事を周囲にアピールしたいという狙いもあった為に、より熱を帯び、そしてコアな表現が含まれてしまう。


「――という大いなる運命の扉が開かれて、青く澄み切った空の下、太平洋の大海原で二人は遂に出会ったの。
 嗚呼、それは第三者から見れば、初めての対面と言うのかもしれないわ。
 けれど、魂の叫びが訴えているの。
 これは血の繋がらぬ姉と弟が時空を超えて再会をはたした瞬間であったと――」


 既にテッサリアとマケドニアとの境界にある峻峰の名や、十二神云々のくだりの辺りから、アスカの説明をまともに聞いているクラスメートは皆無であった。

 ただ呆然と――早く説明が終わらないかな?――と思いながら聞き流していたのである。

 そしてクラスメート達からの彼女に対する印象は大きく変わり始めていた。
 確かに彼女は美少女である。しかも極上の。
 しかし、この妄想としか言いようのない独自色豊かな空想話を熱く語って聞かせようとする彼女のスタンスを前にして、生徒達は一斉に引いてしまったのである。

 間違いない――彼女は、真性のヲタクであろう。
 ちょっとくらい腐ってるのが美味いんですよ?――とか、知る人ぞ知る某有名作品の眼鏡っ子と同じ臭いがする――と感じてしまったようだ。
 もっとも、その眼鏡っ子はヤ○イの道を突き進む少女であったが、こっちの見た目はツンデレの彼女の方は、ショタ――それも姉弟というコアなカップリングを好む嗜好の持ち主なのであろう。

 さて――自称碇アスカの妄想劇場はまだ続いている。
 そもそも今日日のライトノベルでも、こんな無茶な設定はないよ。
 ――と、誰でもいいから突っ込みを入れて欲しいと思っていたその時である。


 すっと静かに手を上げた少女が居た。
 誰あろう2−Aが誇る元祖美少女――蒼いシャギーのショートの髪と、ルビーのような神秘的な赤い瞳が印象的な彼女の名は――。


「先生――私、今日から碇レイに改名します」


 ここにも密かにショタで姉弟カップリング属性の方が居た模様である。
 これ以上、勘弁してよ、綾波――と、がっくりと肩を落とした幼い少年の姿がそこにあった。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






「まあ、それにしても、アスカと弐号機の日本デビュー戦は見事な程の惨敗だったわね」


 本来ならば苦々しく告げられるべき敗戦のコメントなのであるが、どこか楽観的な様子を感じさせるミサトの発言であった。

 時を遡る事――丸1日前。
 第七の使徒の襲来は海からであった。
 本来ならば、その最前線となる第三新東京市は、前回の使徒の攻撃で甚大な損傷を受け、防衛設備が充分には機能しないと判断し、水際で使徒を迎え撃つべく、現在稼動できる初号機と弐号機を海岸へ配置したのであったのだが――。


『お姉ちゃんのカッコイイ所を見せてあげるわ!』


 ――と先陣を切って日本でのデビュー戦に臨んだアスカであった。
 ソニックグレイブ一閃、真っ二つに第七使徒を両断し、完勝したと勝ち誇ったのも束の間。
 2体に分離した使徒は、それぞれに活動を再開し、あっさりと弐号機を撃破。
 更には出遅れた格好となった初号機に対しても2体掛かりで圧倒し、僅かにシンジは善戦の様子を覗かせたものの結局は3分程度しか戦える事ができず、沈黙の憂き目となってしまったのであった。

 そしてエヴァ両機の戦闘不能に陥った後は国連軍が使徒迎撃を引き継ぎ、N2地雷を用いて、使徒の構成物質の約29%の焼却に成功――使徒が再生を遂げるまでの足止めをすることができたのである。

 前回の戦いの影響により、損傷の激しい零号機の修復はとても間に合わない。
 そして初号機及び弐号機の修復も相応の日数を要する事となり、使徒の再生との時間の勝負となった。

 しかし、このまま策も無く、初号機及び弐号機の修復が間に合ったとしても勝ち目はあるまい。
 そこでネルフ本部内のとある一室にシンジとアスカを召集したミサトは二人に対してこう告げたのである。


「今日から6日間――二人にはここで寝泊りをして貰います」


 元々、その部屋は士官用の宿泊施設であるようだ。
 ツインルームのビジネスホテル同様、二人分のベッドの他、浴室やトイレなど必要最低限の設備が整っている。
 その部屋で――二人っきりで寝泊りしろと言う命令に困惑の表情を浮かべたのはシンジである。

 慌てて、その小さな手をいっぱいに伸ばすようにして振り回し、拒否の姿勢を覗かせる。


「ミサトさん、“男女七歳にして同衾せず”と言いますよね?
 いくらなんでも、男女が二人っきりでひとつの部屋で寝泊りするなんて――」


 ひとつの部屋で寝泊りするなんて常識から外れて過ぎてますよ――と続けようとしたシンジであったのだが。
 そんなシンジの背後を陣取ると、そのまま小柄な彼の身体を包み込むように抱き締めながら素早く自身の両手でシンジの口を塞いでしまうアスカであった。


「シンジくん、上官からの命令は絶対なのよっ。
 ええ、アタシ達に拒否権はないわ。
 それはもう仮に14才と7才の若い身空で子作りをしろと言われても、上官の命令には従うしかないの」


「んんっ?! んっ」


 口を塞がれたまま驚いた表情を見せ、縋るようにミサトを見つめるシンジであった。
 その様子たるや肉食獣に捕獲されたトムソンガゼルの雰囲気を漂わせている。

 それはさておき――くぐもったシンジの声が洩れると、彼の口を塞いでいる自身の手の平に、その声が伝える僅かな波動を感じた途端、アスカは全身が身震いしてしまう程の快感を覚えてしまう。


(はうっ――このこそばゆい感覚はっ)


 手の平を中心にして体温が上昇していくような錯覚。
 それは他の少女にとってはともかくも、幼い少年にこよなく惹かれているこの少女にとっては、ある種の怪しいドラッグのようなものであった。

 皮膚の一片々々が意識をもって彼の息吹を感じようとするかのように張り詰めていく。

 嗚呼、あともう一度。
 そう、もう一度、彼の甘い吐息混じりの声の波動をその手の平で堪能したいと、本能的に願ってしまうアスカであった。


「し、シンジくんっ。
 今の、ほら、もう一回っ――」


 鳴かぬなら、鳴かせてみせよう不如帰――とばかりに耳元で迫るアスカの様子に、思わずシンジは怯えてしまう。
 逃れられるものなら逃れたい。
 しかし、背後から抱き締められ、半ば拘束されていると言っても過言ではないその状況では、身動きひとつする事さえできない。

 頼みは保護者のミサトの介入であるが、その彼女の表情を窺うと、目を輝かせてアスカとシンジの様子を凝視しており、興味本位の視線で観客モードに突入している。
 心配しなくても踊り子には手は出さないわよ――と、黙して語らずとも、そのにやけた目が雄弁に語っている。
 唐突に始まってしまいそうな少女と幼い少年の秘め事を、このままかぶりつきの特等席で観るのも悪くないと考えているのか、助けてくれそうな気配はない。

 この孤立無援のまま、行動がエスカレートしてしまいそうなアスカの手によって、あられもない姿を晒す事になってしまうのか?
 しかもここはネルフ本部内とはいえ宿泊施設という密室。
 淫猥なスプリングの音を響かせてくれそうなベッドも視界に入っている。

 嗚呼、碇シンジのテイソーは風前の灯火なのか?


「ほ、ほらっ、シンジくんっ。
 もう一回、シテちょうだいっ――」


 はあはあと荒い息を洩らしつつ、実にアヤシゲな声をシンジの耳元で呟くアスカの様子を目の当たりにして、いやそれって一応は純粋無垢な少女が口にしていいセリフじゃないわよね――と、どこまで静観しようかとミサトが悩み始めたその時であった。


 がぷり。


 窮鼠猫を噛む。
 追い詰められた子羊も、オオカミに対して牙を剥く事がある――のかもしれない。

 躊躇したものの、シンジは自身の口を塞いでいるアスカの手の指を噛んでしまったのである。
 しかし、心優しいシンジに限って思いっきり噛む事など出来る筈もあるまい。

 アスカが怪我をしたりしないように甘噛み程度の噛み方であったのだが――。


「ひぃあぅっっ?!」


 シンジの口を覆っている手に全神経を集中させていたアスカにとって、その甘噛みは実にクリティカルな攻撃となりえたようだ。

 まるで全身に電気が流れてしまったかのように身を大きく震わせると、瞬間的に意識が途切れてしまったのか、そのままその場で大の字を描くように仰向けに倒れてしまうアスカであった。

 いや、厳密に言えば、“大の字”の言うよりも、M字開きゃ――げほんごほん。
 とりあえず、倒れた拍子で制服のスカートが全開となり、乙女の絶対領域が大ピンチという有様である。


「あらまあ、アスカったら、とっても感じやすいのね。
 ――で、お約束の縞パンか。
 ほら、折角だからよそ見してないで、シンジ君も見てみたら?」


「み、ミサトさん、何を言ってるんですっ。
 意識を失った女の子の下着をっ――の、覗き見ちゃうなんて、そんな卑怯な事はできませんよっ」


 意識を失っていなかったら出来るのか――と突っ込みを入れようかと思ったミサトであったが、あれもこれもと虻蜂取らずの突っ込みになっては面白みが半減してしまう所だと即座に判断し、第六使徒殲滅後、新横須賀港へと入港した際にアスカが口にした主張の裏づけを取る方に専念しようと決めたようだ。


「あら、でもこの前なんて、プラグスーツに着替える時に、お互い裸を見せ合った仲なんでしょ?
 今更、パンツのひとつやふたつ――」


「み、見せ合ってなんかないですよっ!
 だって、あの時――アスカお姉ちゃんは、無理矢理に僕のシャツを脱がせた途端に鼻血を出して倒れちゃったし。
 おかげで意識を失った下着姿のアスカお姉ちゃんにプラグスーツを着せるのに苦労したんですよ」


「ふーん、そんな事があったの。
 ――って、あれ?
 プラグスーツは素肌に着るものだから、ひょっとしてシンジ君。
 アスカのブラとパンツを――」


 じろり――と追求の意を更に強めてシンジをひと睨み。
 どうやら、確かに裸を見せ合った仲ではないようだが、一方通行気味に裸を見てしまった間柄ではあるようだ。


「だってその……緊急の事態でしたから。
 何度も起こそうとしたんですけど、アスカお姉ちゃんは気を失ったままで――。
 ああっ、でも、ちゃんと目を瞑ってましたよ、僕っ」


「ふふん、目を閉じたまま、アスカの着替えをねぇ。
 ――まあ、慣れてないから、うっかりと色んな突起部を触っちゃったんじゃないの?」


「え、あ、はい。
 だって、アスカお姉ちゃんって細身なのにけっこう――って、な、ナニを言わせるんですかっ!?」


 あっさりと誘導尋問に掛かってしまうシンジであった。
 どうやら目視による確認だけでなく、シンジ本人にそのつもりは無かったとしても、結果的にアスカの滑らかな素肌を直に触ってしまっているのだろう。
 それはもう、使徒襲来という緊急事態でなければ、オトナへの階段を半歩ぐらいは昇っていたのかもしれない。
 その時の柔らかな感触を思い出してしまったのか、頬を赤く染めてしまうシンジであった。

 見た目は幼い子供であっても、中身は多感なセイ少年である。
 異性に対して年相応に興味があって当然だろう。

 そして一方の14才の少女の方は年相応以上に――いや、相手が幼い少年であるシンジ限定という年相応異常と言っていい程に、イケナイ行為に対してヤル気満々の様子を見せている。

 そんな二人を前にして、この計画を本当に実行していいのか、さすがに不安を覚えるミサトであった。


(大丈夫――とは信じたいけれど、さすがにコレはやっぱり手を打っておかないとマズイわよね)


 こうして――周囲の大人達の不安を他所に、姉弟属性持ちのショタコン少女と見た目そのまんまショタな少年の同居生活は幕を開けたのである。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






「ほら、シンジ君、もっとリズミカルに――そして曲に合わせて頂戴。
 アスカは――――もうっ、とにかく、集中しなさいっ!」


 二体に分裂する使徒に対して有効な攻撃方法はただひとつ。
 分裂状態の使徒のコアに対して、同時に攻撃を加えて破壊する。
 その為には初号機と弐号機のパイロット二人が完全に息を合わせ、ユニゾンする必要があるのだ。

 そのユニゾンを完全なものとする為に、シンジとアスカは、決められた曲に合わせ、息を合わせたダンスを踊る事を命じられたのである。
 それだけではない。
 体内時計までも完全に一致させる為、起床から就寝まで全く同じ生活リズムにする目的から一緒の部屋で寝起きする事となったのであるが――。


 ちらっ、ちらっ。


 2つの蒼い瞳は正面を見ようとしない。
 真横で一緒にダンスを踊っているシンジの方に露骨に視線を向けたまま、時折、見惚れるように頬を赤く染めている。

 ユニゾンの特訓の開始から既に丸5日間もの時間が経過しており、いよいよ明日は作戦決行の日を迎えるのである。

 そんな追い詰められた状況にありながら、二人のユニゾンのレベルはなかなか向上しない。
 シンジの方は彼なりに一所懸命にダンスを踊ろうとしているのであるが、元々その手の素質が無い上に、如何せん小さな身体がハンディキャップとなり、すぐに体力は底を突いてしまい長時間踊る事ができない。
 更にはその疲労から集中力を維持する事ができず、どうしてもリズムに対して遅れがちになってしまう。

 そして一方のアスカ。
 ある意味、こっちの方が重症であった。


(あううっ、いつものサラサラとした髪もいいけど、汗が滴っている髪もいいわ〜。
 火照った顔も当社比30%増で可愛いし、それに汗を吸って肌に張り付いているシャツもまた実にいいわっ。
 そ・し・てっ。
 ときどき覗かせてくれる、プリティなおヘソっ!
 いやホント、それは反則よっ。
 ――って言うか、このダンスのレッスン用の衣装を選んでくれたミサトに感謝しなくっちゃ!
 アタシとペアルックで色違いのこのシャツの丈の長さはベストセレクションだわ。
 これで、シンジくんに半ズボンを穿かせてくれていれば最高だったんだけど――。
 ああ、でもこの丈が短くて肌にぴったりのタイツも捨て難いかも。
 いやいや、この際、ネコ耳を付けさせて体操服にブルマだと――はううっ、想像するだけで、また鼻血が出そうっ)


 ――ある意味、とても集中力を持続していると言えるのだろうが、常にシンジの一挙手一投足をねっとりと舐め回すように視線を注いでいる為に、どうしても肝心のダンスの方はおろそかになってしまう。

 そもそも、アスカはこの特訓を本気で受けようという考えは無かったようだ。
 ハマり込んだひとつの嗜好に目が向いてしまうと、他の事はおろそかになってしまうオタク的なスタンスが表れてしまったのだろう。


(まあ、こんなユニゾンの特訓なんかしなくったって、相性ばっちりのアタシとシンジくんが本気になれば、今度の使徒だってあっさり撃破してみせるわよ。
 そんな事より、問題はこの忌々しいセンサーよね。
 コレをなんとかしないと、“シンジくん抱き枕計画”が実現できないまま、この6日間が終わってしまうわ)


 忌々しいセンサー、とはリツコお手製のものである。
 シンジとアスカをひとつ屋根の下で二人っきりにする上で、ある種の危険を感じたミサトが、アスカの暴走を抑えるために、彼女の両手首、そして両足首にリストバンド型のセンサーを装着させたのであった。

 そのセンサーは二人の居住スペース内のみにおいて効力を発揮し、もしもアスカがシンジのベッドに近寄ろうとすると、その手足に巻いたリストバンドから強烈な電撃が流れるという仕組みになっていたのである。

 無論、強引に取り外そうとした場合でも結果は同様である。
 この手枷足枷の為に、目の前でシンジがすやすやと可愛い寝顔を覗かせていても、アスカは思うようにシンジの寝床へと侵入する事が出来ずに居たのであった。

 初日、2日目と続けて、虎縞ビキニ姿の宇宙人の鬼っ娘から電撃を受けて朽ち果てた某婿殿のように、アスカはシンジのベッドの手前で前のめりに倒れ伏し、そのまま意識を失い床の上で朝を迎えたのである。

 ならば――と、就寝時における彼のベッドへの侵入を諦め、3日目、そして4日目はシャワーを浴びるシンジを狙おうと、浴室へと侵入を果たそうとしたのであったが、その両日共に立ったままシャワーを浴びていた彼の後ろ姿を目の当たりにして、シンジの可愛いお尻を直視した途端、激しい程の鼻血を吹き出しつつ転倒し、やはりそのまま意識を失ってしまったのであった。


(お風呂は――ダメね。
 もう少し耐性を付けてからでないと、シンジくんの裸は破壊力が有りすぎて、こっちの命があぶないわ)


 ならば残すこの居住空間内の共有スペースでシンジに抱きつく事ができるのは――。


(と、トイレっ? トイレなのっ?!
 い、嫌よ、ハジメテなのにトイレで――なんてっ)


 “シンジくん抱き枕計画”と称しておきながら、抱き枕だけで我慢する気などなく、やはり、シンジのイロイロな初めてを狙っているようである。

 それはともかくも、結局の所、アスカはシンジに対して指一本すら触れる事が出来ず、この日を迎えてしまっていたのだった。

 ちょっと考えれば、未だ少女の域から踏み出していないとはいえ、自身の女の色香を武器にしてシンジを誘惑し、彼を自分のベッドに引き入れるという手段がある事に気付いてもおかしくはない筈なのであるが、基本的に猪突猛進型の彼女は、“押してもダメなら更に押せ”というスタンスの思考しか思い浮かばなかったのである。

 一方のシンジはと言えば、ユニゾン特訓に体力の全てを費やしてしまっているのか、初日こそ異性との相部屋を意識した様子はあったものの、2日目以降は部屋に戻れば、すぐにシャワーを浴びて、そのままベッドに倒れて込むようにして眠ってしまうというサイクルを繰り返していた。

 そしてそんな彼のあられもない寝姿を目の当たりにして、アスカは悶々とした夜を過ごしてしまっていたのだった。

 こうして――使徒との攻防戦を目前にして、周囲を取り巻くスタッフ達に緊張感と切迫感が漂っている有様でありながら、二人が夜を一緒に過ごしている一室においては、また別の意味での緊張感漂う攻防戦が展開されていた訳である。

 これでは、二人の体内時計がリンクする事などある筈もない。

 無論、ミサトも策を講じないまま看過した訳ではない。
 緊張感が欠如しているアスカにプレッシャーを掛ける為に、特訓の途中に、アスカに代えてレイにシンジと一緒に踊るように命令をした事もあったのだが――。


『――いかりくん、反則』


 ダンスを上手く踊れず、足を滑らせて転んだ拍子にシャツが胸の辺りまで肌蹴てしまったシンジ。
 アスカと同様に全くダンスに集中できず、彼の方へと熱い視線を注ぎ続けていたレイは、丸見えになってしまったシンジの桜色の乳首を直視した途端、そう呟きながら壮絶に鼻血を噴き、そのまま意識を失ってしまったのである。


『レイっ、あんたもかいっ』


 嘆くようにそうコメントを洩らしたミサトであった。
 結局はアスカを本気にさせる有効策は見つからない。
 運を天に任せて、その日を迎えるより他なく、特訓の最終日となったこの日は、シンジの体力を考えて早めに終了となったのであった。


 そして――訓練が早く終わったという事は。


「訓練が早く終わったという事は、今夜は所謂ひとつの、ちゃーんす――というコトよね。
 さて、それにしてもどうやって、“シンジくん抱き枕計画”を成功させようかしら」


 部屋に戻るなり、シンジより先にシャワーを浴びながら作戦を練るアスカであった。
 シンジはシャワーを浴びた後はすぐに眠ってしまう。
 しかし、シャワーを浴びている間は、アスカにとってその光景は刺激が強すぎて、手を出す事が出来ない。
 ならば、やはりシンジがシャワーを浴びる前、或いは浴びた直後に手を出す――もとい、手を打つしかあるまい。


「ここはひとつ、シンジくんがシャワーを浴びている間に浴室の前で待ち伏せしておいて、風呂上り直後を抱きかかえてそのままアタシのベッドに引き摺り込んでしまう――と。
 うん、この作戦でいくしかないわね」


 すっかりと長湯してしまったものの検討を重ねて、ようやく自身の策に満足し、浴室を後にしたアスカであったのだが――。
 シンジに対する悪戯心もあって、裸身にバスタオルを巻いただけという艶姿のまま、ドアを開け脱衣所から寝室へと姿を見せたアスカの目に映ったのは、ユニゾン特訓用のダンス着のままベッドの上で既に熟睡してしまっているシンジの姿であった。


「な、なんでー!?」


 がらがらと思い描いていた妄想が音を立てて崩れ落ちていく。
 愕然とした表情を浮かべて、アスカはその場に跪き――手をシンジの方へと伸ばし、そして縋るような目線を添えた。


「し、シンジくぅん――汗かいたまま眠っちゃったら、風邪を引いちゃうわよっ。
 ねえ、ほら、ちゃんと起きてっ!」


 懸命に眠っているシンジを起こそうと呼びかけるアスカであったが、完全に疲れ切ってしまったのか、シンジは泥のように眠り続け、仰向けのままぴくりとも身体を動かそうとはしなかった。

 そんなシンジの方へと、膝を床についたまま、半歩、また半歩と、近寄っていくアスカ。
 しかし、このままシンジが眠っているベッドに近寄ってしまったなら、何度も体感して気絶させられている電撃を味わう事になってしまう――と、既の事で気が付き、アスカは伸ばしていた手をだらりと下げて、がっくりと肩を落とした。


「あうう、シンジくんの抱き枕を堪能したかったわ……」


 やはり諦めて寝るしかないと、空いているもう片方のベッドへ向かおうとしたアスカであったのだが――。
 妙な違和感をアスカは覚えた。


「あれ? こっちのベッドって――?」


 越すに越されぬ大井川。
 二人の間にはセンサー&電撃システム内蔵のリストバンドというジェリコの壁が存在していた。
 その為に、どんなに渡ろうとしても辿り着けなかったシンジのベッド。
 まさにアヴァロン――その地は全て遠き理想郷と化していた筈なのであるが――。

 そう、その違和感とは、その禁断のベッドの上には誰も横たわっていないという事であった。

 しかし、一方では、シンジは既にすやすやと眠っている。
 しかも、彼が着ているシャツの裾は捲れ、可愛いおヘソを覗かせたままの姿で。

 ――と、いう事は。


「――と、いう事はっ。
 シンジくんってば、アタシのベッドの上で眠っちゃったのっ?!」


 鴨が葱を背負ってキタ。
 それどころか、鍋まで持参でやってキタ。

 自らマナイタの上に乗ったコイを前にして、思わず、アスカは絶叫モードで「キターっ!」と内なる感情を前面に晒したい気分であった。

 それを辛うじて抑えたのは、眠っているシンジを起こしてはいけないと瞬時に考えたからである。
 その思考速度については、さすがは弱冠14才にして既に大学まで卒業している秀才であるという所だろうか。
 その優れた頭脳は、もっと他の建設的な方面で駆使すべきだろうが、現時点においては、幼い少年との熱愛――それも今は二次元の世界ではなく、その身で実際に抱き締める事の出来る少年――碇シンジとの恋物語をどのように現実のものとしていくのか、その点にのみ絞ってフル活用している有様であった。


「すっ、据え膳喰わぬはオンナの恥よねっ!
 そうよっ、コレはなかなか手を出してくれないアタシに対して業を煮やしたシンジくんが、自ら進んでアタシに全てを差し出してキタんだわっ!

 そうっ、あんなコトも、こんなコトもっ。
 今夜は全て開放版というコトよねっ!

 角笛は今、吹かれたわっ。
 やっぱり、ジェリコの壁は崩れ去る運命だったというね!」


 シンジを起こさないように自制する筈が結局の所は結構な大声を上げてしまいつつ、その端麗な容姿に似付かわしいとは言えない実に逞しい力拳を振りかざすアスカであった。

 そして、ゆっくりと――シンジが眠るベッドへとにじり寄っていく。
 遂には自らもベッドの上へと身を進め、四つん這いの体勢で幼い彼の身体に覆い被さるように陣取った。

 眼下にはあどけない様子を覗かせているシンジの寝顔が間近に迫っている。
 いや、迫っているのは勿論アスカの方なのであるが。

 兎にも角にも、碇シンジのテイソー、大ピンチである。
 彼女自身も裸身にバスタオルを巻いただけという格好であり、既に大人の階段を最後まで駆け上る準備は整っているという臨戦態勢であった。

 無論、二次元萌えの世界に埋没し続けてきたアスカにとって、同人誌などから得た知識はあれども、実体験など微塵もない。
 また、好きなキャラを模した抱き枕で、幼い少年を抱き締める擬似的なシチュエーションを何度も繰り返し味わってきた事はあれども、実際に生身の幼い少年をベッドの上で抱き締める事など、初めての経験となる。
 はたして、どこまで踏み込んだ行為に及んで良いのやら、彼女自身も整理できていない事だろう。

 ごくり、と生唾を飲み込んだその音が静かな室内に響き渡る。


「と、とりあえず、ほっぺから、よね」


 マウス・トゥ・マウスのファーストキスの前に、まずは前菜。
 ぷにぷにと柔らかい彼の頬を堪能したいという欲求が高まったようだ。

 アスカは胸を高鳴らせながら、静かに自身の頬を彼の頬へと擦り寄せた。


「はぁっ……」


 頬と頬が重なり合ったその瞬間。
 思わず、どこか艶めいた声を洩らしてしまうアスカであった。

 更に、柔らかなシンジの頬に自身の頬を擦り続けていく。
 すると互いの頬と頬が完全に密着し、まるで肌同士が意思を持ち、離れようとせず引かれ合っているかのような錯覚を感じてしまう。

 更にはユニゾンの特訓で一頻り汗を掻いたシンジである。
 程良い汗の匂いが彼女の鼻孔をくすぐった。

 いつまでも、ずっとこうしていたい。
 捕まえたつもりでいたのに、捕まってしまったのは彼女の方なのかもしれない。

 ずっと、こうしていてもいいんだよ、アスカお姉ちゃん――と、眠ったままのシンジがそう呟いたような。
 そんな気がしたアスカであった。

 魅惑的なその誘いに惹かれ、そのまま埋没してしまいそうな気持ちを懸命に抑え、うっとりと蕩けそうな瞳を覗かせつつ、アスカは僅かに身を起こした。

 いつまでも頬ばかりを堪能していても、次のステップはない。
 どこまで進んでしまうのか、また、どこまで進んでしまって良いのか判っていないアスカではあったが、次のステップだけは明確に把握していた。

 そう――視野に捉えたのは、シンジの唇である。

 今はただ規則正しい寝息を洩らしている彼の唇に自身の唇をそっと重ねたい。
 そして、小鳥が啄ばむように何度も何度も唇を重ね合わせて――そのままディープに大人のキスまで堪能したい。
 更にもしも、舌と舌を絡め合わせたなら――その後は、もう歯止めが利かないかもしれない。

 もしもその途中でシンジが目を覚ましてしまっても、強引にねじ伏せて、最後まで辿り着いてしまうかもしれない。

 つまりは、これはひとつの分岐点。

 その将来において、必ず彼の“初めて”の全てを手中に収める事は、彼女自身の中では既に決定事項ではあり、大いなる野望の内のひとつであるのだが、今、この場で最後まで辿り着いて良いのかどうか。

 僅かに躊躇したものの、アスカは意を決したのか、自身の唇を彼の唇へと近づけていく。
 あと10センチ――あと5センチ。
 彼の寝息を肌で感じる程にまで近付いたその時であった。


「アスカお姉ちゃん――」


 突然、シンジが口を開き、そう呟いたのであった。
 唐突に名を呼ばれたアスカはその場で固まってしまう。
 あとほんの少し顔を彼の方へと寄せれば、初めてのキスを体感できるその状況である。
 ひょっとして起きてしまったのか?――と動揺しつつ、アスカはシンジの反応を待った。

 この有様を見られてしまったなら、もはや言い逃れできる状況ではない。
 たとえシンジがどんな反応を見せようとも、アスカはこのまま彼の唇を奪うつもりであった。
 その後の流れは――まさに流れに任せるつもりであったのだ。

 はたして、シンジは目覚めたのか。
 そして、この後、どのように言葉を続けるのか。

 アスカはキス直前の姿勢のまま、固唾を呑んでシンジの反応を見守った。

 その緊迫した状態の中――シンジはゆっくりと口を開いた。


「僕が――守る、から」


 短い、一言であった。
 そして、その一言はまたしてもアスカのハートをクリティカルに射抜いたと言えよう。

 初めて会ったあの日。
 洋上で使徒の襲来を受け、僅かながらも怯えを感じてしまったあの時。
 普段は守られるべき存在の幼い少年でありながら、使徒を迎えたあの時、シンジは実に頼もしく逞しい姿をアスカに見せてくれた。

 その瞬間から、単なる幼い少年への思慕ではなく、アスカは碇シンジという少年に、異性として心惹かれたと言っても良いだろう。

 その時の記憶がありありと脳裏に蘇ったアスカであった。


「アタシって、バカだわ。
 本当に大馬鹿者ね」


 思い浮かべれば、このユニゾン特訓が始まってから、シンジは決して上手くそのダンスを踊る事は出来なかったものの、それでも彼なりに一所懸命に全力で努力していた。

 分裂する使徒を迎撃する為に、その幼い小さな身体で、精一杯に戦う準備をしていたのだ。


「それなのに――アタシは」


 私的で邪念に満ちた気持ちを優先させ、本気で訓練に臨もうとはしなかった。
 今、この瞬間も同様である。
 ユニゾンが完成していない中、せめて体力の回復を図る必要があるというのに、不埒な考えから、シンジの体力回復を妨げる行為をしてしまう所であったのだ。


「アタシの方がシンジくんを守らなくちゃいけないのにね……」


 教えられてしまった。
 エヴァのパイロットとしてあるべき姿を。

 そして、もうひとつ。
 悟らされてしまった。
 彼に――碇シンジという少年に、心から惹かれ、そして惚れてしまった事を。


「優先するのはシンジくんの体力の回復を図ること。
 そしてアタシは――」


 目標を掲げ、その手段を明確にした後のアスカの行動力は特筆すべき程である。
 シンジの睡眠の邪魔にならぬよう、アスカは静かに床に座ると、胡坐をかいた姿勢になってMDプレイヤーを手に取り、ヘッドホンを装着して、ユニゾン特訓用のダンスの曲を聴き始めた。

 無意味な状態で過ぎ去ってしまった時間を取り戻す事はできない。
 ならば、今からでも残された時間を有効に活用するより他ない。
 アスカは何度も何度もその曲を聴き続け、そしてイメージトレーニングを行っていく。

 シンジとぴったり息を合わせて踊る姿をイメージし、そして身も心もユニゾンして共に並んで戦う姿をイメージしていく。

 何度もハードな戦闘訓練を受けてきたアスカにとって、一晩ぐらい徹夜する事など造作ないものである。
 そして飛び級して既に大学まで卒業している彼女である。
 集中力の高まった今なら、どんなに難易度の高い問題であっても、難なくクリアして見せる事だろう。

 こうして、規則正しい寝息を洩らしている幼い少年の傍で、一睡もせず朝までイメージトレーニングを続けていくアスカの姿があった。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 明けて翌朝。
 決戦の日の朝である。

 予定の時間よりも僅かに早く目が覚めたシンジは、すぐ傍でなにやら物音がしている事に気が付いた。

 まだぼんやりと思考の定まらぬ寝起きの状態で、シンジはその物音がする方へと視線を向けたのであったが――。


「いっ?!」


 シンジは驚きのあまり固まってしまう。
 そして酸性を示したリトマス試験紙のように頬が赤く染まってしまった。

 そんな彼の視界に映ったのは――ユニゾン用のダンスを懸命に踊っているアスカの姿であったのだ。
 しなやかに腕を振り、大きく足を広げ、躍動するように踊っている。

 おそらくはイメージトレーニングを重ねていく中で、どうしても実際に身体を使って踊ってみたい気持ちになったのだろう。

 行動的なアスカならではの選択であった訳なのだが――。


 問題はその格好であった。


「あ、アスカお姉ちゃんっ?!」


 思わず声が裏返ったシンジ。
 そんな彼の目の前で、アスカは高々と片足を上げてそのまま振り下ろし、大股を開いたままの姿勢でダンスを締め括り、ポーズを決めた。


「あら、おはよう、シンジくん。
 ごめんね、起こしちゃったわね」


「そ、そんなコトよりも、アスカお姉ちゃん、その格好はっ――」


「格好?」


 シンジに問い掛けられて、ぼんやりと自身の姿に視線を向けたアスカであったのだが――。


 ない。
 そう無いのだ。

 いや、有るか無いかと言えば、14才にしては成長著しい立派な胸の膨らみを有している。

 問題はそこではない。
 着て、無いのだ。

 服は勿論、下着さえも。

 まさに生まれたままの姿で、あられもなく大股を開き、両腕を広げて――つまり、女の子にとって大切な部位をフルオープンの状態で、シンジの目の前に立っていたのである。


「い? え、あ、うっ――おぅぅぅっ?!」


 まるでア行の発生練習のように声を上げてしまうアスカ。

 昨夜、バスタオルを肌身に巻いただけという格好のまま、イメージトレーニングを始めてしまった彼女は、集中力を高めた為に、自身の格好を忘れて、そのままダンスを踊り始めてしまった訳である。

 無論、バスタオルは元々衣類ではない。
 激しい運動に耐えられる筈もなく、早々に重力に陥落して、床に落ちてしまっていたのだ。


「し、シンジくんっ、見ちゃだめぇぇぇぇっ!」


 絶叫し、今更ながら両手で女の子にとっての大切な部位を隠しつつ、乾坤一擲――必殺の回し蹴りが宙を斬る。
 この凄まじい蹴りを辛うじてかわしたシンジであったのだが――。


「ぴ、ピンク色っ――」


 大股を開いた蹴りをかわせば、必然的にその脚の付け根を間近で見てしまうものである。

 こんな所はよく似ている二人であると言えようか。
 アスカと同じように盛大に鼻血を出して、その場に倒れてしまったシンジであった。

 意識を失ってしまうその直前に、彼が残した「ピンク色」という言葉がナニを示しているのか。
 それはアスカによって固く口止めされたのか、シンジは決して語ろうとしなかった。

 もっとも、「絶対にセキニンを取って貰うんだからっ」――と、分裂使徒との戦いを無事に終えてから、顔を真っ赤に染め上げつつ主張したアスカの様子が、語ろうとしないシンジに代わって、その秘密の全てを雄弁に物語っていると言えるのだろう。


 余談であるが、分裂使徒との戦いは圧巻であった。
 訓練の間では一度も成功しなかったユニゾンが、二人の相性の良さを示すかのように、完璧なまでに息が合い、僅か62秒で分裂使徒を撃破して見せたのであった。













「え゛っ、その話って本当なの?
 本当に、本当に、シンジくんってば、ミサトと一緒に暮らしているの?!」


 戦い終えて落ち着いて。
 元のホテル暮らしに戻ったアスカであったのだが――。

 シンジがミサトと同居しているという事実を知ったアスカは、血相を変えて声を荒げたのであった。


「ナニ、考えてるのよっ! 肉食獣の巣にイタイケな子羊を住まわせるなんて!」


「葛城一尉、元祖碇くんのお姉ちゃんとして、私も看過できません」



 結果――葛城家は新たな同居人を迎える事となった。

 その同居人とは、自称碇アスカさんと、自称碇レイさんである。

 二人の義姉(?)に挟まれて、幼い姿の碇シンジ少年には、これからも苦難の道が待っているのであるが――それはまた別のお話である。

 いや、苦難と言うよりも、女難の道と言うべきなのであろう。

 兎にも角にも、ショタコン・アスカさんの遠大な野望が成就する日が到来するのは、まだまだ先の話のようである。





- おわり -


 またいつの日か続編を書くこともあると思います。


[Return]