『炉印アスカちゃんのえんだいなやぼう』 (アスカ誕生日記念) by イイペーコー |
これはとある並行世界の物語。 使徒の襲来も無ければ、某最終決戦兵器なども存在しない平和な世界。 セカンドインパクトも無かったこの世界では、ごくごく普通に四季も存在している。 これは、その異世界の第三新東京市で――年上のお兄さんに恋する幼い少女の物語。 その少女の名は、惣流アスカ。 一応は純和風な名前だが、4分の3の割合で西洋の血を引いているクォーターの少女である。 さらさらとした紅茶色の長い髪や、海のように澄み切った蒼い瞳。 そして美人である母親の遺伝子が優性であった事を示すような整った顔立ちを客観的に分析すれば、少女が将来において絶世の美女へと成長していく事を容易に想像できた。 しかしながら、少女はまだ小学三年生。 明日の誕生日を迎えれば9才となるが、少女の域から足を踏み出すのは、まだまだ遠い将来の事であろう。 絵本の中からそのまま飛び出してきたのではないかと思える程の可愛らしさは実に印象的であるものの、お年頃の少年のハートを射抜くには、少々幼過ぎると言えようか。 「――なにが、幼すぎると言えようか、よ。 アタシのこのビボウをもってすれば、16才の男の子のハートをワシづかみするぐらい朝めし前よ」 小学校の制服なのであろう。 アスカが身に付けている上下の制服は、紺色と白を基調とした清潔感を感じさせる色合いであり、小学生らしく軽快な動きにも適したものであるようで、スカートの丈はやや短めであるようだ。 どうやら――その学校帰りに公園に立ち寄ったのだろう。 ジャングルジムの天辺で仁王立ちし、天を睨みながらそう宣言したアスカであった。 「別にいいけど。 あなた、さっきからパンツ丸見え。 もしもここにお兄ちゃんが通りかかったらどうするつもりなのかしらね」 ジャングルジムのすく傍で、ほくほくとした焼き芋を頬張りながら、言葉静かに突っ込みを入れるもうひとりの少女の姿があった。 アスカと同じ制服を身に纏い、ほぼ彼女と同じぐらいの背格好のその少女の名は碇レイ。 赤い瞳とショートの蒼い髪が実に印象的である。 アスカが“動”を感じさせる美少女であるならば、レイの方は“静”をイメージさせるタイプの美少女であろう。 勝気でリーダーシップもあり、どこか姐御肌的な雰囲気を感じさせるアスカに対して、基本的にレイは物静かな雰囲気をいつも漂わせているものの、発言を要する時には、大人顔負けの理路整然とした論調で相手を圧倒してしまう事があり、クラスの中でも一目置かれている存在であると言う。 まるっきり正反対の性格の持ち主同士でありながら、家が隣同士という事もあり、そして意外にも波長の合う部分が多いのか、幼少の頃から仲良く行動する事が多い二人であった。 もっとも、それぞれにお互いの関係を問い掛けると、互いに腐れ縁だと即答しており、全面的に親しい間柄である事を公認するには抵抗があるようだ。 「なに言ってんのよ、シンジは部活があるからこんな時間帯に通りかかるわけが――」 「レイ、アスカちゃん。 今日は公園で寄り道かい?」 「お帰りなさい、お兄ちゃん。 今日は期末試験前だから部活がなくてこの時間なのね」 まさに絶妙のタイミングであったと言うべきだろうか。 ジャングルジムの天辺で仁王立ちしていたアスカが、シンジの名を口にしたその頃合いをまるで見計らったように現れたのは、レイの兄である碇シンジであった。 もっとも、兄と言っても血の繋がりはなく、シンジ、そしてレイは再婚同士である両親のそれぞれの連れ子である。 二人の両親が再婚をしたのは、今から約5年前――当時の年令はシンジが11才、レイは4才。 人見知りの激しかったレイであったが、幼いながらに兄として優しく接し続けてくれたシンジには、すぐに打ち解けて、その頃からずっと良好な兄妹の関係が続いている。 付け加えるならば、レイがこの街に引っ越してきたのはその頃であり、一方のアスカはそれよりも以前から――具体的に言えば、自身が生まれた頃からシンジとは家が隣同士という事もあり、家族ぐるみの親しい間柄であった。 多忙なアスカの両親に代わって、頻繁に彼女の面倒を看ていたのは他ならぬシンジであり、アスカのおむつを替えた回数なら、彼女の母親と匹敵するぐらいであるという。 つまりは、シンジとアスカもある意味では兄妹同士のような関係であると言えるだろう。 当時のおむつ替えの話をシンジがする度に、『レディの裸を堪能したんだから、当然セキニンを取って貰うんだからね!』と頬を真っ赤に染めながら主張するアスカの姿があった。 もっとも、その度に『それなら頻繁にお兄ちゃんと一緒にお風呂に入っている私の方が、より責任を取って貰う必要性があると思うわ』と返す刀で反論するレイの姿があるようだ。 その幼いレディ達の発言の中に彼女達の意思がひしひしと感じ取れるように、アスカとレイは7才も年上のシンジに対して、兄への思慕ではなく、異性として好意を抱いていた。 幼い頃から最も身近に居た彼に対して、家族愛的な感情から異性に対する想いへと変化を遂げたのは、至って自然な流れであったのかもしれない。 ある意味、アスカとレイにとって、多忙を極めて不在になりがちな両親よりも、シンジは信頼し、頼りにしている存在であったし、彼の妹であるレイは勿論の事、アスカまでも殆ど毎朝、毎晩のようにシンジの手料理を食べて育ってきたという背景があった。 こと色恋めいた点に限定すれば、少女は少年よりも早く大人びた思考に目覚めるものであろう。 それは、アスカやレイにとっても同様であり、シンジに対する想いは二人にとって初恋である。 しかし、一方――その相手である碇シンジの方は、16才と多感な時期を迎えていると言うのに、恋愛面においては折紙付の鈍感ぶりを発揮しており、中性的な雰囲気を感じさせるその容姿から、同級生は元より、年上や年下の異性からも、幅広く好意を寄せられている様子であったが、当の本人は全くその事に気付いていない有様であった。 小学校低学年の頃に必要に迫られ育児全書が愛読書であった彼は、年を重ねる内に様々な家事に纏わる知識を会得し、今ではすっかり主婦業を極めてしまっている状態である。 もしも性別が女の子であったなら――碇シンジは今すぐにでも、どこへお嫁に出しても恥ずかしくは無い程の家事の腕前との評判であった。 閑話休題。 アスカにとっては予想もしていなかった意中の少年の唐突な襲来である。 ましてや、レイの指摘通り、ジャングルジムの天辺に立っているその状態は、シンジの視点からも乙女の絶対領域が丸見えになってしまう事だろう。 「ええっ、ウソっ?! なんで、シンジがっ――」 慌てたアスカは、思わず足を滑らせてしまう。 そして、そのまま危うく地上へ落下してしまうと思われたその瞬間である。 「おっと、危ない。 大丈夫? アスカちゃん」 すぐさま駆け寄ったシンジは、両手でしっかりとアスカの身体を抱きとめていた。 所謂その体勢は夢見る少女達にとって憧れのシチュエーションのひとつであると言えよう。 「お、お姫様抱っこっ…。 アスカ、ずるい…」 頬を膨らませながら指摘したレイの言葉通り、小さな彼女の身体はしっかりとシンジの両手で抱きかかえられ、地上への落下の衝撃を予想して固く目を閉じていたアスカは、痛みとは正反対のその心地良い感覚に驚きつつも、どうにかいつもの調子で元気な声を上げたのだった。 「なっ、ナニしてるのよっ! この、エロばかシンジっ! おおお、乙女の身体を勝手に抱き締めるんじゃないわよっ!」 その状況を理解した途端、思わず頬をシンジの胸板に擦りつけ、頬を赤く染め上げてしまった彼女のセリフとは思えない主張である。 いつもいつもこのようなケースにおいて、アスカは心の中では感謝の気持ちを連呼しつつも、口から零れ出てしまうのは憎まれ口であったのだ。 「ああ、ごめんね――今、おろすよ」 「え? あ、ちょっと待ってっ! おろすのナシっ!」 慌ててそう告げたものの時既に遅し。 黙っていれば今暫くの間は大好きなシンジにお姫様抱っこをして貰うの図を堪能できたのであろうが、指摘を受けたシンジはすぐに屈んで彼女の身体をその場におろしたのであった。 「ああん、もうっ。 このニブちんシンジっ。 ちょっとは乙女心を察しなさいよっ」 ぷいとそっぽを向いて、ごにょごにょと不平の旨を口にするアスカであった。 「自業自得ね、このツンデレ娘」 「ほっといてよ、このブラコン娘」 シンジには聞こえないように小声で罵倒し合うレイとアスカ。 その二人の様子に首を傾げてしまうシンジ。 それは三人にとって日常茶飯事の光景であった。 いつもならば、この後、シンジを中央にして仲良く三人で手を繋いで家路に向かう事となるのであるが、この日は少々異なる展開が待っていた。 「あれ、シンジくん。帰り道で会うなんて奇遇だね」 少々、棒読み気味のその呼び声に三人揃って振り向くと、快活そうな雰囲気漂う円らな瞳が印象的な少女がショートの茶髪を揺らしながら駆け寄ってくる所であった。 シンジが通っている高校の制服姿のその彼女は、どうやら彼と親しい間柄のようである。 更にはその茶髪の少女の背に隠れるように、もうひとり。 淑やかな雰囲気を感じさせるさらさらとした長い黒髪と丸い縁の眼鏡が印象的な小柄な少女が一緒に歩み寄ってくる所であった。 「こ、こんにちは、碇くん。 お、おひさしぶりですっ」 「お久しぶり――って、山岸さん、さっきまで一緒に授業を受けてたよね」 「あうっ、そ、そうでした。 でも私的にはお久しぶりです」 「ああもう、マユミったら舞い上がっちゃって。 ここは私に任せておきなさい」 頬を赤らめて俯いてしまった眼鏡の似合うその少女とバトンタッチするように口を開いたのは茶髪の方の少女であった。 「ねえ、シンジくん。 帰り道に偶然会ったのも何かの縁だし、来週からの期末試験に向けて、勉強会を開かない? たとえば明日の土曜日とか――」 偶然と口にしたものの、どうやら計画的な行動であるようだ。 どうやら彼女はストレートで素直な性格なのであろう。 茶髪のその少女の申し入れは棒読み気味であり、表情もどこか固くなっている様子であった。 そしてその狙いは、勉強会は口実であり、休日にシンジと会う機会を作り、そのまま親密な関係になってしまおうという腹積りなのであろう。 その微妙な空気を敏感に察知したアスカとレイは、まるで申し合わせしていたかのように息を合わせて咳払いをしてみせた。 「「 ごほん 」」 それは絶妙なタイミングの咳払いであったようだ。 まるで茶髪の少女の主張を一蹴するかのように辺りの空気を一変させ、更にアスカとレイは、会話していたシンジとその少女の間に割り込むと、仁王立ちして彼女達を睨み付けた。 幼い少女でありながら、その背後には燃え盛るオーラを漂わせているようにすら感じさせている。 その勢いに押されて、機先を制されてしまった格好の茶髪の少女は、少々身を引き気味にして口を開いた。 「こ、このお二人は、シンジくんの妹さんなの?」 「え、ああ、うん。 こっちが妹のレイで――」 「アタシはシンジの許婚のアスカよ」 「――で、私はその許婚さんよりも、碇シンジと深い関係にある義理の妹の碇レイ。 民法上、義理の兄妹は結婚できる事も保証されているのであしからず」 圧倒するようなその二人の物言いは小学校低学年とは思えない凄みを感じさせる。 紹介を遮るようにそう主張した二人に、シンジは苦笑いを浮かべるより他なかった。 「ええと、霧島さん。 折角の勉強会のお誘いだけど、明日は大事な用事があるんだ。 良かったら次の機会にまた誘ってくれると嬉しいな」 「あ、明日が駄目なら、日曜日でもいいんだけど」 なおも食い下がろうとする茶髪の少女であったのだが、幼い少女二人の鉄壁のATフィールドが大きく立ちはだかった。 「明日も明後日も、未来永劫に渡って駄目。 お兄ちゃんは多忙なの」 「そーいうコト。 ムダな努力はしない方がケンメイよ。 それじゃあね、お姉さん達」 言い終えるが早いか、レイとアスカはそれぞれにシンジの手をぎゅっと掴み、ぐいぐいと引っ張って行く。 この状態になった二人に逆らう事などできる筈もない事をシンジは長年の経験から理解していた。 「ごめんね、霧島さん、山岸さん。 二人が失礼なことを言って。 それじゃ、また来週、学校で――」 幼い少女二人に強引に手を引かれて歩きながら、半身を捻って振り返り、そう告げる事で精一杯の様子を覗かせるシンジであった。 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ その日の夜。 碇家の食卓は、いつものように少年ひとり、幼い少女二人という光景であった。 アスカの父親は海外に単身赴任中であり、多忙を極めている母親もまた先週から引き続いて海外出張中である。 アスカの母、キョウコが不在の時は、幼い彼女は碇家に預けられる事が定番となっており、碇邸にはアスカ用の部屋がある程である。 そして両親不在という点では碇家も同様であった。 研究所勤めをしているシンジとレイの両親は、期日が迫り状況が逼迫してくると研究所に泊まり込んでしまうケースが多かった。 その場合、レイやアスカの面倒は全面的にシンジに託される事となるのであるが、こと食事に限って言えば、母親であるユイが在宅であろうと無かろうと、台所に立つのは殆どシンジの役割になっており、両親不在となっても殆ど問題はないようである。 こんな状態が日常となっているのだ。 シンジがアスカの事もレイと同様に妹扱いをしてしまうのも無理はあるまい。 今夜も食べ盛りの二人の少女の食欲を満たし、それでいてきちんと栄養バランスの取れた彩りの良い献立であった。 二人が心地良さげに満腹の様子を見せて、「ご馳走様でした」――と口にする。 その言葉を耳にする事をシンジは他の何よりも楽しみにしており、今日よりも明日、明日よりも明後日は更にもっと一手間加えて美味しい料理を作ろうと考える傾向にあり、そのスタンスこそが彼の料理の腕を飛躍的に向上させ続けているのだろう。 しかも、明日はアスカの誕生日である。 日頃はなかなか使えない高価な食材も惜しみなく用いて、数々の手料理でテーブルの上を埋め尽くすつもりであった。 折角の誕生日なのに両親が不在という境遇である。 幼い彼女が淋しく感じない筈はあるまいとシンジは心を痛めていた。 ならば、少しでもその淋しさを払拭させ、アスカに楽しい思い出を作ってあげたいと考えていたのであった。 (大きなケーキも作らなくっちゃ。 プレゼントの手編みのマフラーは既に準備出来ているし、後は部屋の飾りつけをどうするかだけど――レイに相談してみるかな) 自室で机に向かい期末試験の為に勉強しつつも、明日のアスカの誕生日に向けて思考を巡らせるシンジであった。 心境は愛娘の成長を見守る父親のようなものであろうか。 昼間のように、彼女達が許婚だの結婚だの、色恋に満ちた発言を口にしても、これぐらいの年頃の女の子は身近なお兄さんに対して関心を持ってしまうものだから――と、まるで本気にしている様子などないシンジであった。 しかし、その一方。 幼い少女二人は、大人顔負けの実に現実的な腹黒い攻防戦を展開していたのである。 「ねえ、レイ。 シンジってば、試験勉強中って、ずっと夜遅くまで起きているの?」 リビングのソファで寛ぎつつ、なにやら本を読んでいるレイに話しかけるアスカであった。 少女マンガの類か、あるいは幼い少年少女向けのファンタジー系の小説かと思いきや彼女が読んでいるその本のタイトルに目を向けると、“賢い新妻の経済学”などという読者の対象年齢が一回りは違いそうな書籍である。 「――少なくとも、お兄ちゃんが勉強を終えるのは、良い子が起きている頃合いではないわね」 「ふーん、要するにレイは知らないのか。 シンジと深い関係にあるとか言ってたけど、その程度ってわけ?」 それが挑発的なものであり、意図的に感情を逆撫でしようとしているアスカの作戦なのだという事はしっかりと頭では理解できているレイであったのだが――。 理解できていても感情はコントロールできないという事を実感しつつ声を荒げてしまう。 「そういう貴女こそ何? 昼間はお兄ちゃんの許婚だなんて勝手に言って! まさかと思うけど、赤ん坊の頃に裸を見られた事ぐらいで本当に責任を取らせるつもりじゃないでしょうね?」 「あら、失礼。 シンジってば、い・も・う・と――のレイにはきちんと伝えていると思っていたんだけど、内緒にしていたのね。 もう、シンジってば恥ずかしがり屋さんなんだから」 “妹”の部分をあえて強調し、更に挑戦的な視線をレイに向けるアスカであった。 ちなみにアスカが主張している許婚云々は、説明するまでも無いが、幼い少女ならではの口約束のようなものである。 アスカが幼稚園を卒園し、小学1年生になった頃、こんな会話があったのだ。 『これでアタシもオトナの仲間入りねっ! まあ、オトナになったからには結婚しなくちゃいけないし、シンジのお嫁さんになってあげてもいいわよ』 『そうだね。僕もアスカちゃんも、もう少し大人になってから――だけどね』 当時、シンジは中学2年生。 家事の実力は充分に大人の領域に足を踏み入れていたが、元より人並み外れて恋愛関係は疎い彼である。 結婚を含めた将来のイメージが出来ている筈も無かった事だろう。 しかしながら、頭脳明晰なアスカは、この時の会話を一言一句違わずに記憶しており、シンジとは将来の約束をしていると一方的に認識していたのだ。 それはともかくも、“大好きなお兄ちゃん”が既に他の女と結婚の約束をしていると聞かされて、心穏やかに居られる筈のないレイであった。 鋭い眼光をアスカに向け、ソファから腰を上げて先程まで読んでいた本も床に投げ落とし、一触即発の雰囲気を漂わせている。 「アスカ――寝言は寝てから口にするものよ。 良かったら、眠らせてあげようかしら?」 「あら、奇遇ね。 アタシもレイを寝かし付けてあげようかと思っていた所なのよ」 ニヤリと笑みを浮かべて、アスカもその場で立ち上がり、正面からレイと相対して見せた。 (ここまでは計算通りね。 口ではレイに敵わないけど、体力勝負ならこっちのものよ。 早々に疲れさせて、今夜は早めに眠って貰うわよ。 そしてその後は、シンジの部屋に行って――) それがアスカの作戦であった。 作戦遂行上において障害となるレイを疲れさせ眠らせた後、シンジの部屋へと向かい、彼と一緒のベッドで一夜を共にするつもりなのである。 もっとも、一夜を共にするといった所で、そこは小学3年生。 背伸びするような秘められた行為など、耳年増な彼女であったからおぼろげに想像はしていたものの、さすがにそこまでは考えてはいない。 単にシンジと一緒のベッドで彼に抱きついて眠りたいという恋する幼い乙女の純粋な願いがそこにあったのだ。 「へっへっへっ。 これで“シンジ抱き枕計画”は成功したも同然ね。 そして明日の誕生日は、朝チュン状態よっ」 訂正しよう。 純粋な願いと言うより、ヨコシマな野望と言うべきだったようだ。 嗚呼、黙っていれば天使のように愛らしい美少女であると言うのに、ついつい本音が零れ落ち、幼い少女には似付かわしくない、ちょっと嫌らしそうで意味深な微笑を浮かべ、あろう事か涎まで口もとから垂らしてしまう。 「それが本音という訳ね。 しかし、その本音を口にしてしまう辺りは、実に貴女らしいと思うけど」 「へ? アタシ、今なにか言った?」 「ううん、アスカは何も言ってないわよ。 きっと、心の中で、そっと純な願いを思い浮かべていただけでしょ」 そう答えつつ、レイは感情的になっていた頭を冷やし、いつもの冷静さを取り戻していた。 このまま流れに任せて喧嘩などしてしまってはいけない。 負けはしなくても、アスカが相手では勝つ事は容易ではあるまい。 おそらくアスカの狙いは、喧嘩をする事によって体力を消耗させ、早めに眠らせてしまうつもりなのだろうと見抜いたレイであった。 (そうは問屋が卸さないわ。 一戦交える事になるとしても、もう少し有利な展開にしてからだわ) 幼少の頃からの長い付き合いである。 アスカもレイの性格や体力などを把握している訳であったが、同様にレイもまた、アスカの性格、そして弱点を承知していたのだ。 「ねえ、アスカ――貴女、喉が渇いていない? このまま貴女と雌雄を決してもいいけれど、それならお互いに万全の状態の方が良いと思うのだけど」 「のど? そりゃまあ、渇いてるけど。 どうしたの? 急に――」 急にそんな事を言い出すなんてヘンよ――と続けようとしたアスカであったが、その言葉を遮るように口を開くレイであった。 「ここにとっても美味しいジュースがあるの。 普段はなかなか飲めない高級なジュース。 だけど、親友のアスカの為だもの。 これを飲めば元気も出るし、深夜までだって夜更かしできるわ」 「え、深夜まで夜更かし? そんなにスグレモノのジュースなの?」 シンジのベッドへと侵入を果たす為には、なるべくシンジが就寝してからの方が好ましいだろう。 その為には深夜まで寝ずに起きている必要があろう。 小学3年生の身に深夜までの夜更かしはかなりの難行である。 故にレイのその提案は実に魅力的であった。 「ほら、この缶ジュースよ。 こんな高級な缶ジュースは見た事がないでしょ?」 そう告げたレイの手には、いつの間に用意したのか、確かに缶ジュースと思しきサイズの飲み物が握られていた。 しかしながら、それは子供用ではなく、大人用の飲み物であった。 “これはお酒です”と書かれてある部分を巧みに隠し、表面の実に美味しそうな果実が描かれている部分をアスカに見せる。 そう、その飲み物とは、所謂缶チューハイの類であった。 無論、小学3年生の少女が飲んで良い代物ではない。 「なんだか怪し――」 「ほら、乾杯しましょ。 私も飲むわ」 アスカに発言の機会を与えぬよう、巧みに間を取りながら、素早く透明のグラスを2つ準備すると、レイはその缶チューハイと思しき飲み物のプルトップを開いて、そこへ均等に注いでいく。 すると小気味良い炭酸系の泡が立ち、リンゴ味なのだろうか、見た目にも美味しそうな赤みを帯びた色合いの飲み物がアスカの視線を奪ったのであった。 元より炭酸系のジュース類をアスカが好物としている事は承知の上のレイであった。 急に親切な振る舞いを見せるレイの様子に不審の念を抱きつつも、“夜更かしできるジュース”という触込みと、レイも一緒に飲むという一言が、アスカの警戒心のハードルを一気に下げてしまったようだ。 「ず、随分と美味しそうね」 「それはもう間違いないわ。 さあ、アスカ、乾杯しましょ」 お互いにグラスを手に取り、そのまま軽く当てて乾杯すると、先にレイはその飲み物を飲み始めた。 その様子を見て完全に安心して、アスカもグラスに口をつけ、ごくりごくりと喉を鳴らしながら飲み始めたのであるが――。 「かッ――」 思わず声を上げたのはアスカであった。 最初の喉越しは実にフルーティで飲み易いものであったものの、それが災いして大量に飲んでしまい、その結果、すぐにアルコールによる影響から体温があがり、立ち眩みが彼女を襲ったのである。 「ひゃっ、なに、これぇ……ましゃか、おしゃけ?」 既に呂律が回らない。 アスカは立っている事ができず、そのまま尻餅をつくように座り込んでしまう。 そんな彼女から器用にグラスを奪うと、レイは勝ち誇ったように笑みを浮かべつつ口を開いた。 「本当にアスカはお酒が苦手よね。 お正月の時のお屠蘇も、雛祭の時の白酒も、飲んだ後はすぐに酔って眠っていたし。 まして、今さっき飲んだお酒はアルコール度数が5%もあるの。 これなら朝まで熟睡できそうね」 「ひっ、ひきょうもにょー」 思えば、レイはお屠蘇や白酒を飲んでも全く顔色を変えなかった――と、今更ながらに思い出すアスカであった。 どうやら、体力勝負ならアスカに分があるものの、頭脳戦においてはレイの方に軍配があがるようだ。 「問答無用よ。 私のお兄ちゃんに不埒な事をしようと企む相手は、たとえ貴女でも容赦はしないわ」 そう告げたレイの言葉を辛うじて耳にしたものの、そこまでがアスカの限界であった。 重い瞼はすぐに閉じられ、すやすやと規則正しい寝息をたて始めたのである。 「これで九分九厘、今夜は大丈夫だと思うけど、念には念を入れておく必要があるわよね」 それは氷の微笑とでも言うべきか。 アスカ同様、こちらも澄ましていれば、誰もが目尻を下げる生粋の美少女であると言うのに、義兄のシンジの事が絡むと人が変わってしまう所がレイにはあった。 凍てつくような視線を覗かせながら口許を歪めて笑みを浮かべると、更に磐石の一手を打つべく、アスカの部屋へと向かうレイであった。 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 「ひーっくしゅん」 どこかオヤジっぽいくしゃみをして、その自身のくしゃみで目が覚めたアスカであった。 すると既に真夜中であるのか、辺りには灯りがついておらず、すぐにはそこがどこなのか理解できずにいた彼女であった。 眠る前に飲んでしまったお酒の影響なのか、少しばかり頭痛を感じて、無意識の内に手を額の辺りに乗せようとしたアスカであったのだが――。 「あれ? 身体が動かない? なに、これ?」 右手も左手も全く動かない。 更には両足も同様である。 動くのは首から上と、僅かに腰をくねらせる事が出来る程度であった。 「まさかと思うけど――いや、まさかじゃなくて、レイのしわざね」 だんだんと暗闇に目が慣れてくると、自身の置かれている状況が理解できた。 場所は碇邸1階のリビング――その洋間の床で寝転がせられている。 しかも、掛け布団と毛布で身体を巻かれ、その上からロープで全身を縛られた状態である。 所謂、簀巻き状態であるが、12月という真冬の寒さを考慮したのか、掛け布団や毛布で全身を包んだ辺りはレイの優しさであろう。 このままでは朝になって誰かにロープを解いて貰うまで身動きひとつできない有様であろう――と、思われたのであるが。 「こんな事ぐらいで、“シンジ抱き枕計画”と、誕生日の朝チュンを諦めないわよっ」 これぞ、恋する乙女の底力――という所であろう。 布団と毛布で包まれた簀巻き状態でありながら、アスカは巧みに腰をくねらせて、まるで尺取虫のように少しずつではあるが移動を始めた。 目指すは2階のシンジの部屋である。 現在時刻は判らないものの、この静まり返った辺りの雰囲気からすれば、彼もまた既に夢の中の住人と化している筈だと考えたアスカであった。 幸いにリビングから廊下へと繋がるドアは開いており、アスカは懸命に腰を上げたり伸ばしたりを繰り返し、ほふく前進をしていったのである。 しかし、彼女を待ち受けていた最大の難関がすぐに目の前に現れた。 1階から2階へと向かう為には、どうしても階段を昇らなくてはならない。 普段ならば、何の問題も無く慣れ親しんでいるこの階段を駆け上がっていた所であるのだが――今は尺取虫の歩みと同様である。 一段々々の段差がなんとも高く感じられ、まるで前穂高岳東壁から山頂を見上げる光景のようにさえ感じられた。 「こんな階段ぐらいっ、なんて事はないわよっ」 背を弓なりに反らして上半身を持ち上げて、そのまま一段上の段へと半身を乗せる。 そして身体の向きを横にしつつ、下半身を持ち上げて、なんとか一段上へ全身を乗せる事に成功したアスカであった。 しかし、まだまだ先は長い。 その繰り返しの作業を延々と進めなければ、シンジの部屋へと辿り着く事はできないのである。 しかも気を抜けば、一気に階下まで転がり落ちてしまう。 その置かれた厳しい状況の中、幼い少女は、自身の純粋で清らかな野望――もとい、願いを果たすため、必死に努力を続けたのであったのだが……。 元より苦手なお酒を飲んだ後であり、また夜中に一時的に目が覚めた状態で、このような無理な体勢での移動など、幼い少女にとってはやはり無理があったようだ。 (だめ……また眠くなって……きちゃった) 視界が段々と歪んでいく。 鉛のように重く感じられる瞼を閉じないようにと懸命に堪えようとしたアスカであったが、すぐに睡魔が襲ってきた。 階段の途中の中程の辺りで力尽きたアスカは、そのまますやすやと寝入ってしまう。 こうして、幼い彼女の野望のひとつ――シンジのベッドに潜り込み、彼を抱き枕にして安眠を堪能し、シンジと一緒に同じベッドで誕生日の朝を迎えるという企みは潰えてしまったかのように思われたのであった。 ――それから、およそ30分後のことである。 期末試験に向け、夜も更けて日付が変わった後も勉強に勤しんだシンジであったが、段々と眠気によって集中力が低下していった。 そしてこれ以上、眠い状態で勉強を続けても効果はないと考え、シンジは寝る前に水を飲もうと席を立った。 重くなった瞼を手で擦りつつ欠伸をしながら自室を後にしたシンジであったが、台所へと向かうべく階段を降りようとした彼の目に留まったのは、その階段の途中で横たわっている円柱状の物体であった。 深夜であった為に電灯を点けずに階段を降りようとしていたシンジには、暗くてその物体が何であるのかすぐには判らなかった。 (何だろう? 布団っぽいけど、まさかね……) 階段の途中に丸めた布団を放置する筈はない。 そう思い首を傾げつつも、シンジはゆっくりと階段を降りて、その物体の方へと歩み寄っていく――すると。 「え? アスカちゃん?」 まるでお寿司の太巻き状態で布団に包まれ、更にはその上からロープで縛られているアスカの様子を目の当たりにして、何事が起きたのかと驚いたシンジであったが、彼女が規則正しい寝息をたてて眠っている事を確認すると、ほっと胸を撫で下ろした。 「とにかくこんな所で眠っていたら風邪を引いちゃうよ」 眠っているアスカを起こさないように、そっと布団ごと彼女を抱きかかえると、シンジは自分の部屋へと戻った。 そしてゆっくりとベッドに彼女を寝かせると、縛られていたロープを丁寧に解いていく。 (今夜は他に人は居ないし、やっぱりレイの仕業だろうな……。 まったくもう、こんな酷い悪戯なんかして。 朝になったら、きちんと叱らなくっちゃ) セキュリティ対策が行き届いている碇邸に不審者が侵入している可能性は皆無に等しかった。 そしてアスカが包まれた布団の上から縛られていた以上、それを行ったのはレイ以外居る筈もあるまい。 こんな悪戯をするような妹ではなかったのにと思いつつも、兄としてきちんと注意しなければ――と思い浮かべるシンジであった。 「それはそうと、アスカちゃん。 随分と気持ち良さそうに熟睡してる。 あまり何度も抱きかかえたりすると起こしてしまうかもしれないな」 アスカの部屋は同じ2階の奥であるが、シンジはこれ以上彼女を抱えて移動させるのは、アスカの安眠の妨げになってしまうと考えたのであった。 「何年ぶりかな……今夜は久しぶりにアスカちゃんと一緒に眠るとしようか」 本来ならば、いくら年の差があるとはいえ、他所の家の少女と一緒に寝るなど、以ての外であろう。 しかし、アスカが産まれた頃からずっと彼女の面倒を看て、あまつさえおむつの世話までしていたシンジにとって、アスカは大事な妹のような存在である。 兄妹ならば同じ布団で一緒に寝ても全く問題はない――という認識であったのだ。 「おやすみ、アスカちゃん」 シンジのベッドは決して大きくはない。 小柄なアスカの身体を優しく抱き寄せて、自身の腕を彼女の枕代わりに貸しながら、そっと毛布と掛け布団を引き寄せて、アスカと自身の身体に掛けた。 寒い夜もこうして身体を寄せ合って眠れば、きっと暖かい事であろう。 その為か、心地良さそうな寝顔を覗かせるアスカであった。 こうしてアスカは自力ではなかったものの、シンジと一緒に眠るという目的を果たしたのである。 おそらくは、このまま穏やかに明日の誕生日の朝を彼と共に迎える事ができるのだろう。 ――と、思われていたのであったが。 一夜明け、カーテン越しに心地良い柔らかな朝日が降り注ぐ。 家の外からは早起きの小鳥達の囀りが聞こえ始めたその頃であった。 静かな朝を迎える筈であった碇邸の静寂を破ったのは、幼い少女の叫びに似たその声であった。 「おっ、お兄ちゃんっ!? アスカとナニをしてるのっ!?」 日頃、めったに声を荒げたりしないレイが凄まじい怒りのオーラを漂わせながら、シンジの部屋の入り口で仁王立ちし、思わず非難の声をあげてしまったのは無理も無い所であろう。 シンジとアスカが同じベッドで寝ていたのだ。 しかも――である。 穏やかで優しい人柄で家事は万能、スポーツは人並み程度であったが学力は高く、非の打ち所のない人物のように思われているシンジであったが、あえてけちを付けるとするならば、寝相はかなり悪かった。 そして一方、愛らしいその容姿とは相反して、活発すぎてお転婆な性格をそのまま反映したのか、アスカもすこぶる寝相が悪い。 寝相の悪い2人が、狭いベッドで一緒に眠ればどうなるのか。 その答えが今、レイの目の前で展開されていた。 「ふぁ?」 寝惚けて間の抜けた声を洩らしたシンジであったが、その声はどこかくぐもった響きになってしまう。 それもその筈だろう。 シンジの目の前には柔らかな白い肌が広がっており、彼の声の波動は直接周囲に伝わる事無く、その白い肌の持ち主へと伝わったのだ。 「シンジぃ、くすぐったい……」 未だ夢の中の住人なのだろう心地良さそうに寝顔を覗かせつつも、肌に感じたその感触を口にしたのは勿論アスカである。 いったい、どんな寝相を経てこんな寝姿になったのか疑問符が付く所であったが、怒髪天を衝くという状態のレイの目に映っているその光景は、パジャマの上着のボタンが全部はだけて、限りなく薄い有様ながらも僅かに第二次性徴の現れを感じさせる小さな胸を露にしたアスカと――その胸の辺りに顔を埋めているシンジの図であったのだ。 その光景だけを捉えれば、幼い少女を組み敷いて若さゆえの熱い迸りを弾けさせてしまった翌朝の図――と受け止められてしまうかもしれない。 つまりはアスカの野望のひとつであった朝チュン状態である。 「お兄ちゃんっ! 私、信じていたのにっ!」 日頃冷静な人物ほど、切れた時には凄まじい迫力になるものである。 尋常ならぬその空気の変化を感じ、生死に関わるような危機感を本能的に抱いたのであろう――シンジは思わず飛び起きた。 そしてようやく置かれていた状況に気がついたのである。 目の前には半裸状態の幼い美少女――アスカ。 しかも頬の辺りに残っている仄かな感触の名残から、今までアスカの白い素肌に顔を埋めていた事が否応なく理解できた。 そして、目を三角にして駆け寄ってきたレイを前に、シンジは咄嗟に弁明の為に口を開いたのであった。 「ち、違うんだよ、レイ。 これは誤解なんだってば」 夜中に台所へ行こうとしたら階段の途中で布団に包まれたアスカが眠っていて――と落ち着いて、なんとか理路整然と説明しようとしたシンジであったのだが――。 「ああん、シンジぃぃ……。 もっとぉ〜。もっと頂戴ぃ〜」 嗚呼、アスカちゃん、アナタは今、どんな夢をミテるのデスカ。 ――言葉にせずとも、泳いでいるシンジの目が彼の心を代弁してくれている。 「お兄ちゃん、問答無用っ!」 はたして、ソレをどこから取り出して来たのか。 最近、通い始めたという剣道の道場での鍛錬の成果を示すように、竹刀を手にしたレイは、大上段に構えて一気に振り下ろしたのであった。 それはまさに電光石火の一撃。 けたたましい打撃音が響き渡り、その強烈な音に驚いたのか碇邸の周囲の木々や電線に留まっていた小鳥達が一斉に飛び立った。 そんな騒ぎの中、誕生日の朝を大好きな男の子と一緒に迎える事ができたアスカは、未だ目を覚ます事もなく、実に幸せに満ちた寝顔を覗かせていたのであった。 「シンジぃ……もっと、ごはん、おかわり頂戴」 ――どうやら、さっきの寝言は、夢の中でちょっと早めの朝食にありついていた為に発した模様である。 こうして誕生日の朝は首尾良く願いを果たした彼女であるが、将来に向けた彼女の遠大な野望が成就する日が到来するのは、まだまだ先の話なのであろう。 16才の少年に恋する9才になったばかりの幼い少女の前途には、まだまだ幾つもの障害が待っているのだろうから。 しかし、きっと彼女なら。 幾多の難関を乗り越え、その将来において、純白のウェディング・ドレスを身に纏い、真紅のバージンロードを歩いて見事に念願を果たし、碇アスカの名を名乗る事になるのだろう。 「こらっ、アスカっ! 貴女もさっさと起きなさいっ!」 ――もっとも、碇レイが、そうやすやすとアスカの野望を看過する事はないようではあるが。 「痛っ! ちょっと、レイっ。 今日はアタシの誕生日なのよっ。 もう少し優しく起こしてくれたって――」 「いいから、早くパジャマのボタンを留めなさいっ、全部っ!」 「え? うそっ、なんでアタシってば、こんな格好なの?!」 幼い少女達の戦いは、どうやらまだまだ続いていくようだ。 それはともかくも、この状況において、お約束の台詞を忘れない彼女であった。 「ちょっとシンジぃっ! そんな所で寝転がってないで! 乙女の清らかな素肌を堪能したんだからね! ちゃんとセキニンを取りなさいよ!」 そう主張した彼女の白い柔肌の胸の辺りにキスマークが出来ていて、更に一騒動が起きてしまうのであるが、それはまた別のお話である。 そして――この日の出来事を忘れずに、碇シンジは、将来においてきちんと責任を取ったのかもしれない。
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