
「いってらっしゃーいっ! できれば1ヵ月ぐらいは帰ってこなくていいわー!」 「右に同じ…」 「アスカお姉ちゃん、それに綾波も。 そんな事を言っちゃいけないと思うよ」 修学旅行に出発するクラスメートを見送る為に空港へと足を運んだチルドレン三人組。 使徒襲来に備えて待機任務を命じられた三人は修学旅行に参加する事が出来なかったのである。 思い出深いものとなるのであろう中学2年の修学旅行に参加できないというのに、三人の表情には残念な様子や悔しいという感情を全く感じさせていない。 修学旅行の地はマリンスポーツがメインとなる沖縄である。 健康的な少年少女なら喜んで参加したい旅行の筈なのであるが――。 「旅行に参加できても、この小さい身体だと、出来る事は限られちゃうし」 ――と呟いたのは、サードチルドレンこと碇シンジ。 とある事情から、見た目は小学校の1〜2年生ぐらいの姿をしているが、その実は正真正銘の14才の少年である。 確かに身長120cmぐらいの彼では体験できるマリンスポーツはかなり限られてしまうだろう。 ならば、その言葉通りに“残念”という気持ちが表情に浮かぶ所なのであろうが、どちらかと言えば、安堵しているという様子が窺える。 どうやら――14才にもなって全く泳げないという事がアスカやレイに知られずに済んでほっとしているのだろう。 もっとも、見た目は6〜7才なのであるから、水泳が苦手でも客観的には決して恥ずかしくはない所なのであろうが。 「ただでさえこのクソ暑いのに、もっと暑い所に行ってアウトドアに励むなんてとんでもないわ! クーラーの効いた部屋でのんびり読書でもして寛ぐ方が100万倍もストレス発散になるに決まっているわよ」 ――と主張しているのはセカンドチルドレンこと、惣流・アスカ・ラングレー。 もっとも、この本名はクラスメートの間では全く浸透していない。 転校早々に自己紹介した“碇アスカ”で本人がずっと通している為に、女子生徒達からはアスカとファーストネームを呼ばせ、男子生徒達からは“碇のお姉さん”と微妙な言い回しをさせている。 それはさておき、その発言――ある意味、的を射ている感はあるものの、その実は彼女の趣味と嗜好をストレートに反映したものであろう。 そう、古今東西ヲタクの道を進む者は迷わずインドア系を好むものである。 読書云々と言っているが、おそらくはその対象の書物は所謂同人誌の類であろう。 付け加えるならば転居早々に膨大な荷物の保管スペースに困り、ネルフ本部内の一画にセカンドチルドレン専用の倉庫スペースを確保せざるを得なかった彼女は、この間を利用して、その確保した倉庫内の整理を行おうかと考えていたのであった。 ちなみにその膨大な荷物の中身とは、実数は数え切れない幼い少年キャラのフィギュアや抱き枕の類。 そして長きに渡って通販を駆使して集め続けた同人誌やDVD等である。 その貴重なコレクションの中には、もはや再生する術がないと思われるベータ版のビデオテープまで混ざっているようだ。 シンジと出会って早々に、そのコレクションを捨てても構わない――と内心誓っていた彼女であるが、とりあえず判断を保留し、現在も大切に保管しているようである。 さすがにその膨大極まりないコレクションを他人に見せる訳にもいかず、未だにその全てがダンボールに梱包されている有様であったのだ。 (とりあえず、今日一日はシンジくんとまったりアタシの部屋で過ごして、倉庫の整理は明日にでも――) そんな予定を思い描いていたアスカであったのであるが――それまで必要以上に発言せず、静観の姿勢を覗かせていたレイがおもむろに口を開いた。 「碇くん、これも良い機会よ。 だから、元祖お姉ちゃんの私が水泳を教えてあげるわ」 「え? あ、そのっ。 僕が泳げないことを綾波は知っていたの?」 「絆だから――」 ぽっ――と頬を赤く染めるレイであったのだが。 その彼女の懐には“碇くん観察日記”なる表題が付けられた手帳が忍ばせられている。 どうやら彼女は可能な限りの方法を用いて、シンジの日常を観察しているのだろう。 その一環で体育の授業中も密かにプールを盗撮し、露になったシンジの素肌を動画として収めつつも、極まった昂りが抑えられず大量の鼻血を流しながら気を失ってしまう事も少なくないようだ。 「だーっ! なに勝手に話を進めてんのよっ! 生粋のカナヅチのシンジくんに泳ぎを教えるのはアタシの役目に決まってるでしょ!」 「えっ……まさか、アスカ姉ちゃんも僕が泳げないことを――?」 「とーぜんでしょ! 百も承知二百も合点よ。 “泳げない”っていう萌え要素をきちんと踏まえてくれていてお姉ちゃんも嬉しいわ」 ――どうやら、ここにもストーカー予備軍のアヤシイヒトが居たようである。 学校のプールを見渡す事の出来る大木に軽々と昇り、デジカメ片手に男子の体育の授業を熟視している少女を見たという目撃証言があるという。 ドイツ支部に在籍していた頃、厳しい戦闘訓練によって培った能力をいかんなく発揮していると言えるのだろう。 もっとも、そんな事に貴重な技量を投入して良いのかどうか甚だ疑問ではあるのだが。 兎にも角にも、アスカの予定にあった愛蔵コレクションの整理は次の機会に延期となったようだ。 つまりは――。 「据え膳は急げよ! 明日からネルフのプールで水泳の特訓ね!」 据え膳は急ぐものではなく頂くものであるのだが――ひょっとすると急いでイタダイテしまおうという意図も秘められているのかもしれない。 こうしてシンジの水泳の特訓は、本人の意思など微塵も考慮されず、唐突に始まってしまうのであった。 |
『ショタコン・アスカさんの遠大な野望・3』 −マグマダイバー編− by イイペーコー |
ネルフの福利厚生施設はかなり充実している。 競泳競技にそのまま使えそうな大きいプールもそのひとつである。 建前的には激務を求められる職員達へのせめてもの配慮という事なのであろうが、その実は仕事が忙しすぎて、僅かな余暇の時間に水泳などに時間を割く者など皆無と言っていい有様であり、そんな実態が世間の目に触れれば、すぐにでも無駄な血税の投入だと苦情が殺到する事が予想される。 幸いなことにネルフは完全非公開の特務機関であり、そのようなクレームがつく事はこれからも無いだろう。 とりあえずはそんな背景も手伝って、結果的にはネルフ本部内の職員専用プールを貸し切る事が出来たアスカ達であった。 邪念に満ちた妄想度の高いアスカとレイではあったが、黙っていれば文句の付けようの無い美少女である。 両名共に実に目に眩しい水着姿であった。 アスカは白と赤のツートンカラーのビキニタイプ。しかもかなり露出度の高い代物である。 一方のレイは透き通るようなその肌に同化するような純白のワンピースの水着であった。 そんな極上の美少女二人の水着姿を堪能できるのは、勿論碇シンジただひとり――なのであるが。 その当の本人――シンジは、なかなか更衣室から出て来ようとはせず、再三再四に渡ってアスカから早く出てくるようにと急かされて、ようやく姿を見せたのであった。 「あの……アスカお姉ちゃん、どうしてもこの格好で泳がなくちゃだめなの?」 おそるおそる更衣室から出てきたシンジは身体をすっぽりと覆うようにバスタオルを羽織っている。 心なしか頬を赤く染めている様子も窺え、アスカやレイの視点においては、彼の可愛らしさは当社比3割増といった所であろう。 「当然でしょ。 だって、シンジくんの露な素肌を見ちゃったら、ファーストが鼻血だして失神しちゃうし」 「否定しないわ。 けれど、それは貴女も同じのはず」 「素肌って――普通に海パンを穿けば問題ないと思うんだけど」 そう反論しながら、シンジは肩から羽織ったバスタオルの裾をぎゅっと握り締め、このバスタオルという名の絶対防衛線を死守する姿勢を窺わせた。 「ほら、シンジくん。 いつまでそんな格好でいるつもり? バスタオルを取らないとプールに入れないでしょ!」 そう言うが早いかアスカは素早く手を伸ばしてシンジが羽織っているバスタオルの裾を掴み、強引に剥ぎ取るように引っ張った。 「うわっ、だめっ、だめだってば」 それはまるで殿様に帯を引かれて衣服を脱がされていく芸者の有様であると言えようか。 バスタオルを剥がされたシンジはその場でくるくると独楽のように回転してしまう。 そして遂には目が回ってしまったのだろう。 どこか目の焦点があっていない様子を見せながら、シンジは大の字になって倒れてしまったのであるが――。 「おおおおっ」 なにやらオジサン的な声質の奇声を上げたアスカ。 まじまじとかぶりつくようにシンジの肢体を見つめてしまう。 「碇くん、やっぱり反則っ……」 たらりと赤い鼻血を覗かせつつ、レイもまた倒れこんだシンジの姿を間近で見つめた。 そんな彼女達の熱い視線を受けているシンジの姿とは――所謂スクール水着姿であった。 幼い身体になってしまい、女の子ではないかと勘違いしてしまう程に愛らしい容姿と化しているシンジである。 濃紺のその薄い布地がぴったりと肌に纏い、ある筈も無いのに平坦な胸が僅かに隆起しているかのように見えてしまう。 しかも弱々しく倒れこんだ後、彼女達の熱い視線を感じたのか、慌ててその場で半身を起こし、細い両手で股間と胸の辺りを隠す仕草を見せたシンジに、アスカとレイは更に目を血走らせて彼の方へとにじり寄って行く。 尋常ならぬ二人の雰囲気を否応無く感じ取り、シンジは言いようの無い身の危険を感じ取ったのだろう。 冷静に立ち返る事が出来れば、美少女二人に迫られている図である。 幼くなってしまった身体は別として、精神的な部分では健康的な14才の少年なのであるから、もっと素直にその状況を堪能しようという発想になれたかもしれない。 しかし、肉食獣を前にして怯えてしまっているトムソンガセルの心境と化したシンジは心穏やかになれる筈もなかった。 逃げ遅れれば食べられてしまう――と。 そんな強迫観念に迫られたシンジであったのだ。 日本語とは実に奥深いもので。 その言葉通りに食べられてしまう事はありえないが、色んな意味で、シンジが彼女達に美味しくタベラレテしまう可能性は否定できない。 どんなにおとなしそうに見えても、そしてどんなに幼い身体になってしまっても、彼もまた(一応は)狩猟民族の血を引く男の子である。 自ら獲物を狩る事は良しとしても、自分自身が獲物となって狩られてしまうような事を容認してはならないと。 彼の本能がそう告げた――のかもしれない。 「うわぁぁぁぁっ!」 碇シンジは唐突に吠えた。 その雰囲気たるや暴走モードへ突入した初号機の如くである。 そして目の前に迫っていたアスカとレイの間隙を縫き、そのまま脱兎の如く走り始めた。 もっとも、暴走した初号機の如く――と評したものの、その格好は可愛いスク水姿という有様である。 迫力という観点においては残念ながら皆無に等しく、客観的には、百合なお姉様達に追われている幼い美少女――という感じであろうか。 「こ、こらっ、待ちなさいってば、シンジくんっ!」 「碇くん、そっちは危険――」 そのように制する声が上がったものの、一心不乱に窮地から脱しようとしている彼の耳には届かなかったようだ。 「はうっ?」 急に足場を失ったシンジは間の抜けた声を上げてしまう。 アスカやレイの制止を振り切ったシンジの行く手にはプールがあったのだ。 結果――声を上げたその直後、プールの水面には大きな水飛沫が舞い上がる。 勢い良くプールに落ちたシンジは、そのプールの底まで一旦沈んだ後、どうにか水面まで浮かび上がったものの、あたふたと両の手を振り回し、溺れているその様子をありありと見せた。 「たっ、助けて〜」 情けなくそう叫んだその声も。 ショタ道を突き進むアスカにとっては、“萌え”を一層に感じる声であった事は言うまでもあるまい。 「待ってなさいっ! 今、お姉ちゃんが助けてあげるわよっ!」 そう言い終えるよりも早く、溺れているシンジの方へと駆け出したアスカ。 すると僅かに出遅れてしまったレイは、つい――その手を伸ばして、彼女の行く手を阻もうとしたのであったのだが――。 「そうはさせないっ。 碇くんは私が――」 アスカの肩を掴もうと伸ばしたその手。 しかし、レイの目測よりもアスカは素早く、肩を捕える事の出来なかったその手はするりと空を切りつつ、とある布切れの端をがっしと握り締めた。 ぶちっ――と、ある意味では実に小気味良い、何か布状の物が切れた音を響かせる。 それでもなお勢いの止まらぬアスカの突進がそこにあり、結果、出遅れてしまったレイの右手には、白と赤のツートンカラーのとある布切れが残されたのであった。 直後――溺れまいと必死にもがいているシンジの視界に飛び込んできたのは、両手を大きく広げて飛び込んでくるアスカの姿であった。 もっとも――あるべき所にあるべき物がない状態であったのだが。 「え、あ、うっ、いいい?!」 まるでア行の発生練習のような声をあげつつ、水面を必死に移動して避けようとするシンジであったが、元よりカナヅチの彼にそんな器用な芸当ができる筈も無い。 「大丈夫? シンジくんっ。 ほら、おとなしくお姉ちゃんに捕まりなさい!」 勿論、アスカとしては溺れそうになっているシンジを必死に助けようという気持ちが強かったのだろう。 ただし、シンジの身体を抱き締めた途端、彼のその柔らかい肌の感触を直に自身の肌に感じ取り、思わず必要以上に力を込めて抱き締めてしまう。 結果、水面の位置にあったシンジの顔は、アスカの胸の谷間にすっぽりと埋められる格好になってしまったのである。 「はううっ、アスカお姉ちゃん、らめだってばぁ……」 「あん、シンジくんったら、息がくすぐったい」 せめてこの時点でアスカも気付くべきであったのだ。 本来ならば、いかに露出度の高い水着とはいえ、自身の胸の谷間に埋めた格好のシンジの頬の感触は、直接地肌に感じるのではなく、薄い布地越しに得る筈の感触なのであるから。 しかし、あまりのその心地良さに。 そう、シンジの頬の感触を直接地肌で堪能しているその心地良さに、アスカは自身の置かれている状態に気付く事もなく、すりすりと肌と肌を擦り合わせるように彼の身体を抱き締め続けたのであった。 そんな彼女を射抜くような鋭い視線で睨みつつ、プール際まで歩み寄ったレイは、いつもの抑揚のない口調で話しかけた。 「弐号機パイロット、招集よ」 冷静な声であったが、内心怒りがこみ上げていたのだろう。 レイの肩はわなわなと震えている。 「へ? 召集? ひょっとして使徒? せっかく、オタノシミの真っ最中だったのに、無粋なんだからもう」 そう言いながら、アスカはようやく胸の中で抱き締めていたシンジを解放したのであるが。 ずっと彼女の胸の谷間に顔を埋め続けていた彼の顔は林檎のように真っ赤に染まり、更には、鼻の穴から赤い迸りがたらたらと――。 「やあねえ、シンジくんったら、この程度のコトで鼻血なんか出しちゃって。 そんなに興奮しちゃったの?」 そう言って、つんつんと彼の鼻の天辺を指で突付いているアスカをプールサイドから見下ろすように見つめながら、ぽつりと呟くレイであった。 「貴女が言った無粋とは粋で無いこと。 ならば、水着を着けて無いことは何て言うのかしら」 「へ? 水着? 着けて無い? 誰が?」 「これ――返しておくわ。 破れてしまったけれど、とりあえずこの場では必要だから」 「はい――?」 レイが手にしていた白と赤のツートンカラーの布切れ。 そう――少し前までアスカが身につけ、14才にしては豊かな部類に入るであろう彼女の胸をしっかりと覆っていた筈の水着を、レイははらりと水面に落とした。 ぷかぷかと目の前で水面に浮かんでいるその水着を前にして――アスカの顔は歩行者用の信号機のように、真っ青になったかと思うと次の瞬間には真っ赤に染まった。 「えええ? ああっ、おおおおうっ?!」 先程のシンジ同様、まるでア行の発声練習のような声を上げ、そして呆然としながらも視線をシンジに向ける。 すると――相変わらず恥ずかしそうに顔を真っ赤に染めたまま、それでもやっぱり男の子。 目の前でたわわに揺れている眩しいその双丘から視線を逸らす事など出来る筈も無いシンジであった。 水面下である為に把握し難い所であるが、幼い少年らしからぬ膨張率を覗かせて、身に付けたスク水の下腹部の辺りは大変な状態になっている事だろう。 「きゃああああああっ! えっち、へんたいっ、チカンっっ!」 ヲタでショタな嗜好を持つ乙女心は実に複雑怪奇であると言えようか。 自らがヘンタイ的な行動に走る分には羞恥心は無いものの、その逆においては純な少女のように恥ずかしがってしまうものであるようで。 スナップを利かせたアスカの右手が宙を斬り、渇いた打撃音がプール内に響く。 それでも相手は幼い少年。 一応は力を加減した一撃であったようだが、傍から見れば充分に幼児虐待の範疇であろう。 次の瞬間には、頬に紅葉のような痕を付けたシンジの身体は、ぷかぷかと水面に浮かんでいたのであった。 「凄い――碇くん、水に浮くコツを会得したのね」 余計な力を入れなければ、自然と身体は水に浮くものである。 一応は、怪我の功名と言うべきであろうか。 結果的には、上手に泳ぐまでには至らぬものの、水に浮くコツには慣れる事ができたシンジであった。 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 浅間山火口で異常な反応が記録された。 ネルフは強権を発動して調査を進め、貴重な機器を失ったものの、羽化直前の使徒を確認。 もしも失敗すればセカンドインパクトの二の舞になる危険性があるものの、生きたままの使徒を捕獲できれば、その与える影響は大きい。 こうして――緊迫感を漂わせながら、使徒の捕獲作戦が始まる。 ――と、本来ならば、その緊迫した展開へと向けて、緊張感に満ちたパイロット達の状況が想像できる所なのであろうが、その実は関係者の危惧をよそに大きく外れていた。 『なによ、この耐熱仕様のプラグスーツって! まるでダルマじゃないの! こんな姿をシンジくんに見せられないわっ!』 『えっと――ごめん、アスカお姉ちゃん。 実はもう見ちゃっているんだけど』 『ふふっ、そうねぇ――今のアスカの姿って、まるで妊婦さんみたいな感じよね』 『なっ!? ミサトったらナニをヘンなコトを言ってるのよっ! シンジくんが妊婦プレイとかに興味を持っちゃったらどうする気なのよっ!』 ――等々。作戦前の緊張感など微塵もない有様であったのだ。 しかし、心身共に硬くなってしまうよりは良い傾向だろうと見守るミサト達であった。 そして、作戦開始。 耐熱耐圧仕様のD型装備で身を守る弐号機に搭乗し、灼熱の火口へ降りてゆくアスカ。 ここでも『火口にカッコウよく下降っ』などとオヤヂ色に染まったギャグを口にするアスカであったが、それは緊張感の表れであろう。 強がってみた所で、作戦失敗はそのまま死に直面する孤立無援の真っ只中へと身を投じるのだ。 いかにそれが世間一般においては倒錯的な野望であるにせよ、意中の異性との将来の展望を夢見てしまった少女にとって、唐突な人生の終焉の危機に直面したこの状況は恐怖に満ちたものとなった事だろう。 それでもアスカは勇敢に行動した。 死への恐怖に負けず、懸命に孤立無援のマグマの中で作戦を遂行しようと限界に挑戦して見せた。 限界を超えた深度まで沈降し、第八使徒を一旦は捕獲したものの、その途中で急に使徒が羽化を遂げて作戦は失敗。 捕獲を諦め使徒殲滅へと作戦は移行するが、灼熱のマグマの中を自由に移動する第八使徒を相手に弐号機は大苦戦。 それでも何とか咄嗟の機転で、どうにか使徒を撃退し終えたアスカであったのだが――。 倒されて朽ちていく使徒は道連れとばかりに弐号機の命綱と言えようケーブルを断ち――まるでスローモーションのように、アスカは裂けていくそのケーブルを見つめていた。 「やだな……これまでなの?」 脳裏に走馬灯のように過ぎったのは、自身の数々のコレクション。 数え切れない幼い少年キャラのフィギュアや抱き枕――更には等身大の(勿論少年キャラの)ポスターやら、同人誌、DVD――等々。 中には年令を偽って入手したX指定のマークの付いた代物も多数含まれている。 アレが遺品として周囲の目に晒されてしまうのは恥ずかしいなぁ――と考えてしまった所で、ふと思い浮かべたのは幼い少年の横顔――そう、碇シンジの事であった。 シンジもまたその“遺品”を目にする事になるのだろうか。 そしてそれらの品々を目の当たりにして、困ったような表情を浮かべるのだろうか。 ――そんな思考を巡らせている内にもケーブルは断ち切れていく。 時間にすれば、それは一瞬に過ぎない間であった事だろう。 しかし、アスカはその短い一瞬の時間で残される自身の“遺品”とそれを形見として受け取るのかもしれないシンジの姿まで思い浮かべたのであった。 「シンジくん――アタシの為に泣いてくれるかな……」 思い描いていた野望――そう、法律までも改正させて幼い少年である彼と結婚し、更にはすぐにシンジの子を宿し、彼そっくりの可愛い息子を産んで、親子と言うよりも兄弟のようにすら見える図――を実現させようと考えていた彼女の野望はこのまま潰えてしまうのだろうか。 「死にたくないっ! だって、まだシンジくんの童○を奪ってないのにっ!」 世間一般の視点において、たとえそれが変態的であり、邪悪な妄想に満ちたヨコシマな願いであったとしても。 純な乙女の願いである事には変わりは無い。 そして、純な乙女の願いを叶えるのは、やはり白馬に跨った王子様である。 たとえ身体が小さくても、頼りなくても、泳ぎが苦手でも。 アスカにとっての王子様はただひとり――。 その幼い王子様の声が彼女の耳に飛び込んできたのは、その瞬間であった。 「アスカぁっ――!」 それはきっと幻聴の筈だろう。 こんなマグマの底で――有線の通信回線も途切れた今となって、地上にいる彼の声が聞こえる筈なんてない、と。 オタクにも神様がいるのかどうか判らないけれど、その神様が、短かった人生の最期に愛しい少年の声を聞かせてくれたのだろうか――と思い巡らせた彼女の目に映ったのは。 それは見紛うことなど決してありえはしない。 紫色の巨人――エヴァンゲリオン、その初号機であったのだ。 「う、そ……」 思わず絶句してしまっていたアスカがようやく口にした言葉はその一言であった。 耐熱耐圧仕様ではない標準装備のままの状態の初号機で、マグマの中に飛び込むなど自殺行為である事は誰の目にも明らかであり、その光景に直面しているアスカ本人でさえ我が目を疑った程である。 しかし、しっかりと初号機が弐号機の身体を掴み、マグマの底へと沈みつつあったその感覚が止まった現実を目の当たりにして、ようやくアスカは我に返った。 よく見れば、初号機は左手で切れた弐号機のケーブルを掴み、右手で弐号機の機体を掴むという非常に不安定な状態である。 おそらくは耐熱仕様ではない初号機のアンビリカル・ケーブルは既に解け落ちて断線しているだろう。 つまりは二人の生死を分ける狭間において、初号機の内部電源が稼動する範囲がそのタイムリミット。 そもそも、標準装備の初号機の装甲が融解するまでどれ程の時間が残されているのか、誰にも判らなかった。 更に言えば、初号機自体も標準装備ならば、その搭乗者であるシンジもまた然り。 尋常ではない高熱に苛まれているだろうその極限の状況下で、幼い身体の彼がどこまで意識を保つ事ができるのか。 「ばかっ! なに考えてるのよ、シンジくんっ。 こんな危険なことしてっ」 絶体絶命の窮地にシンジが助けてに来てくれた事。 それは彼女にとって表現し難いほどの喜びであった。 しかし、それを簡単に口にする訳にはいかない。 なぜならば、彼女は“お姉ちゃん”なのだから。 たとえ血は繋がっていなくても、そして戸籍上においてもなんら繋がりの無い妄想上の義理の姉であったとしても。 姉として弟の無茶な行動を看過できる筈がなかったのだ。 「なんでお姉ちゃんの事を助けに来たの! ひとつ間違えたらシンジくんも死んじゃうのよ!」 高鳴る胸は恋の証。 彼がとった行動を厳しく注意するものの、彼女の乙女心の部分はシンジのとある言葉を待っている。 劣悪なこの状況下でもこれ程に互いに近付いた状況ならば、映像は無理でも音声だけなら無線による通信も可能であろう。 はたしてシンジはどんな言葉を返すのか。 アスカは息を呑んでその言葉を待った。 「ごめんなさい――でも、アスカお姉ちゃんが――死んでしまうかも、って思ったら。 気が付いたら――飛び込んでいたんだ……僕」 あまりの熱さの為に意識が朦朧としているのだろう。 覇気のないシンジの声は、そのまま消え去ってしまいそうな雰囲気すら感じさせる。 しかし、アスカの耳にはシンジの強い意志がはっきりと届いた。 選ばれし適格者としての日常、その反面、余暇の全てを投入し密かに埋没していたオタクの日常。 そのどちらにおいても温かみのある他者との接点に欠如していたアスカにとって、これ程ストレートに――そう、何の迷いも無く救いの手を差し伸べようとする彼の言葉はクリティカルに胸を打ち、そして熱くさせる。 「シンジくん……」 感激と感謝の念を込めて彼の名を呼ぶアスカ。 しかし、そんな少女の熱い想いを他所に現実は容赦無かった。 「あつい……熱いよ、アスカ……お姉ちゃん」 まさに灼熱地獄と化した初号機のエントリープラグ内。 思わず弱音を洩らしたシンジを責める事はできまい。 そしてその彼の声を耳にして、一瞬忘れそうになった“姉”としての自分を取り戻したアスカであった。 「ちょっとシンジくん!? 大丈夫なの?! もういいから! もう充分だから! 弐号機から手を離して! そしてすぐにでもケーブルを両手で掴んでよじ登っていきなさい!」 いつしかアスカは涙を流していた。 熱を帯びたLCLに溶けていく自身の涙に気が付くと、アスカは決心できた。 これ以上、シンジを危険な状態に置いてはならない。 ならば、彼の生存率を押し上げる為には――ケーブルの巻上げ速度を速める為には、足枷となっている弐号機を切り捨てるしかない。 「ありがとう――シンジくん。 アタシ、貴方に出会えて本当に良かった……。 だから、お願い――アタシの分まで幸せになってね」 戦いの中、初号機から受け取ったプログナイフ。 それを改めて手にした弐号機は、その刃先を初号機の右手に向けた。 弐号機の機体を掴んでいる初号機のその手を切りつけて、強引に手を離させようとしたのであった。 間違っても深く傷つける訳にはいかない。 初号機の右手、その甲の表面を軽く傷つけるだけ――そんなつもりでプログナイフを揮ったアスカであったのだが、激しく損傷していた機体を無理に動かした為に手元は狂い、その刃先は深々と初号機の右手に突き刺さってしまう。 「ぐあぁぁぁぁっ!」 初号機とシンクロしているその幼い身体にも、激しい痛みは当然のように伝わっていく。 堪らず悲鳴を口に出したのであろう。 そんな彼の悲痛な叫びを耳にしながら、アスカもまた懸命に叫んだ。 「お願いっ! シンジくんっ。 弐号機をっ――アタシを離してっ!」 意に反して初号機の右手の甲の部分に深々と刺さってしまったプログナイフ。 当然のように激痛を感じているシンジの状態を如実に示すようにその機体は大きく震えている。 それでも、なお――そう、それでもなお初号機は弐号機を離さなかった。 「絶対にっ――絶対に、この手だけは離さない!」 アスカの脳裏に蘇ったのは、初めて一緒に戦った時の彼の頼もしい横顔であった。 日頃は見た目と同じ様に実に頼りない弱々しい有様であると言うのに、いざ窮地に直面すると凛とした姿勢を覗かせて“男”の顔を見せる。 それが碇シンジであった。 たとえ通信状態の劣化により、映像でその姿を目の当たりにする事ができていなくても、アスカには今の彼の凛々しい姿を思い浮かべる事ができた。 「シンジくん……」 もしもこの命が助かるとしたならば――全身全霊を掛けてシンジを守り、そして彼に添い遂げよう――と。 静かにそっと胸の中で誓うアスカであった。 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 戦い終わって日が暮れて。 死線を潜り抜けた二人――アスカとシンジの慰労も兼ねて温泉旅館に一泊する事となり、保護者のミサトと共に浅間山温泉の名湯をすっかりと堪能した一行であった。 そしてその夜。 飲食も含め全ての費用をネルフの必要経費扱いに出来るという権利を勝ち取って、すっかりご満悦といった様子のミサトの酒量は飛躍的に上昇し、山の幸を中心とした様々な料理に舌鼓を打ち、腹も膨れた事も手伝って早々に睡魔の誘いに乗ってしまった保護者の彼女であった。 高いびきをかいて眠っているミサトに苦笑いを浮かべつつ、アスカとシンジは再び温泉に浸かろうと露天風呂へとやってきたのであるが――。 「あれ……? ここの露天風呂って、こんなに広かったかな?」 脱衣所で衣服を脱いで露天風呂へと足を踏み入れたシンジはその違和感に戸惑った。 夕方に一度来た時よりも、およそ二倍は湯船が広くなったような感覚であったのだ。 平日という事も手伝って、今夜は他に宿泊客は居ないと言う。 結果、露天風呂も貸し切り状態であり、その為に広く感じるのであろうかと首を傾げつつも推論を導いたシンジであったのだが――。 「シンジくん――そっちに行ってもいい?」 背後から“彼女”の声が掛かり、まさかと思いつつもシンジは振り返った。 「ええええっ!? あああアスカお姉ちゃん?!」 彼の目に留まったのは、透き通るような白い裸身に辛うじて乙女の大切な部位をタオルで巻いて隠しているアスカの姿であった。 普段は髪留めのように使っているヘッドセットも外していて、その長い紅茶色の髪をストレートに流している為だろうか。 どこかいつもより大人びた印象を感じさせた。 良く見ると頬を赤く染め、彼女らしくなく視線を逸らしている。 一方、シンジはと言えば無防備に全裸という状態である。 故に彼の可愛い桃のような尻はアスカの目にもはっきりと映っている事だろう。 或いはその為に彼の姿を直視できずに居るのか――ちらちらと時折シンジの方へと目を向けるアスカであったが、どこか落ち着きが無い様子であった。 兎にも角にも静かな露天風呂に二人っきりの男女――という構図である。 慌てて、シンジは飛びこむように湯船へと浸かった。 そんな彼の微笑ましい反応に目を細めつつ、アスカはゆっくりと歩を進め、裸身に巻いていたタオルをするりと解くと、そのまま湯船に身を沈め、背を向けているシンジの傍へと歩み寄った。 「ここの旅館の露天風呂って、深夜は混浴になるみたいね。 脱衣所は別なのに中は一緒だなんて驚いちゃった」 驚いた――と、そう口にしたものの、表情からは驚いているような様子は全く窺えない。 そもそもこの時間帯になって、もう一度露天風呂へ行こうと誘ったのはアスカであり、おそらくは混浴となっている事も承知の上であったのだろう。 「いい湯加減――ほんと、気持ちいいわ」 そう言いながら、アスカはそっとシンジのすぐ傍へと近寄ると彼の背中から覆い被さるように抱きつくと、逃がさないようにする為か、両手をシンジの胸の辺りで交差させるように絡めた。 「あっ、あのっ、アスカお姉ちゃんっ。 背中にっ、背中に当たっているんだけどっ」 「えー、何が当たっているのかな、シンジくん。 具体的に言ってくれないと、お姉ちゃん、判らないな」 14歳にしては充分に自己主張が出来る程に発育を遂げたその柔らかな膨らみをぐいぐいと彼の背に押し付けるアスカ。 半円球状の美しいその胸が押し付けられて形が変わってしまう程に密着している状態である。 身体は幼くても、精神的に――そして思考面においては健全極まりない少年にとって、それは凄まじい破壊力を有する最終兵器であると言えよう。 (この柔らかい感触の真ん中に感じているこの小さな突起したものはッ? ――や、やっぱり、これって、アスカお姉ちゃんのっ) その薄桃色の突起部の状態を想像してはいけない。 そして、より具体的に置かれているこの光景を考えてはいけないと懸命に思考を閉ざそうとするシンジであったが、背中に感じる柔らかな彼女の肌の感覚に加えて、耳元に息を吹きかけられ、我慢の臨界点は限界に近付いていた。 そんな時――アスカは静かに目を閉じてシンジの身体を抱き締めているその手を伸ばし、手探りで彼の手を求め――そしてようやく見つかると自身の指を絡めるように手を添えた。 「この手がアタシを救ってくれたのよね。 こんなに小さいのに、とっても勇敢で、とっても逞しい手」 しみじみとそう口にしたアスカであったのだが――。 「はうわっ!? あああああアスカっお姉ちゃんっ――ソレは僕のっ」 なにやら強い刺激が加わったのか、途端にシンジは背を弓なりに逸らしつつ、震えた声を上げた。 目を閉じている為か、そんな彼の様子の変化に気付く事なく、アスカは話し続けた。 「本当は、この世のルールを変える程にまで実績を重ねて、ありとあらゆる障害を取り払ってから、シンジくんと結ばれれば――って、思ってた。 でも――アタシ、決めたの。 これはアタシとシンジくんの問題だもの。 この国の法律やら条令やら、倫理観なんて関係ないもの。 二人の固く紡がれた深い絆を天秤に掛ければ、そんなちっぽけな世の中のルールなんて髪の毛一本より軽いものだから。 だから――ね、シンジくん。 このまま、アタシと……」 このままアタシを貴方のモノにして――などと続けるつもりだったのかもしれない。 しかし、世にお約束というものは付き物である。 そう、このまま若い男女が一線を越えてしまうのかもしれないと思われたまさにその時である。 かっこーん!――と実に小気味良い音が夜空に響く。 温泉旅館特有の“ケロリン”と表記された湯桶が勢い良くアスカの後頭部を直撃したのであった。 「あたっ! ――って、誰よ! こんなモノを人の頭に投げつけるなんて!」 シンジの“手”をしっかりと掴んだまま、怒りに任せてアスカは立ち上がりざまに振り返った。 すると、当然の事ながら、つられるようにシンジもまた湯面から身体を覗かせる事となり、アスカと一緒に振り返る格好になる。 「碇くんの貞操は私が守るもの」 凛とした声でそう宣言して見せたのは――ただならぬ炎のオーラを背後に浮かび上がらせている(ように見える)蒼髪の美少女、綾波レイであった。 あまりにも堂々と胸を張り仁王立ちしているが一糸纏わぬ姿である。 もっとも場所が場所だけに違和感はないのかもしれないが。 「あ、あやなみっ――そんな格好で!」 「碇くん、だいじょうぶぅぅぅぅぅぅ!?」 大丈夫なのかと問いかけようとしたレイであったのだが、あられもないシンジの姿を目の当たりにした途端、おびただしい鼻血を迸りさせながら転倒してしまう。 ある意味、倒れてもなお堂々としていると言えようか。 まさに大の字――両手両足を大きく開いたまま仰向けに倒れ、そのまま意識を失ってしまう。 シンジの視点において障害物は何ひとつない。 乙女の聖域も全開状態である。 一瞬、目を見開いてその様子を見つめてしまったシンジであるが、すぐに我に返ったのか、頬をこれ以上ないぐらい赤く染めつつも、両の手の平で自身の目を覆った。 「まったくもう、シンジくんったら、アタシ以外の女のハダカを見るなんて! でも、ちゃんとすぐにそうやって両手で目を隠してくれたから許してあげる――って、あれ?」 相変わらず彼の背後から覆い被さるように抱き締めたまま、そして彼の“手首”と思しき部位を握り締めたまま、そう口にしたアスカであったのだが――。 妙な違和感を覚えて思わず首を傾げてしまう。 目の前で彼は自分の“両手”を使って目を覆っている。 しかし、その一方でアスカ自身の手はシンジの下腹部の辺りで、先程からずっと彼の手首と思しきナニかを握り続けているのだ。 (コ、コレッテ、マサカ、ソンナ……) 手の平から伝わってくるまるで別の生き物のような脈々とした波動。 握った瞬間は僅かに柔らかさがあったように思えたのに、今ではガチガチに硬くなっているその“正体”は。 おそるおそるアスカは視線をそちらの方へ向けた。 すると――そこにそびえていたのは。 「アスカお姉ちゃん、お願いっ。 そろそろ、ソコから手を離して欲しいんだけどっ。 でないと僕、もう――」 荒い息を洩らしつつ、段々と身体を震わせるその様子が小刻みになっていくシンジであった。 そして、アスカは我が目を疑う事となる。 その蒼い瞳を大きく見開いて、驚愕の表情を浮かべた。 ――ずっと、アスカは今まで思っていた事があった。 世に出回っている同人誌の数々を読み、ソッチ方面の実体験のない彼女は、同人誌にありがちな描写の一部で、幼い少年のとある部位が、その小柄な身体に似合わず、長大な持ち物であったりする様子を――それはもう穴が開くのではないかと思える程に熟読しながらも、こう評していたのである。 『バカぢゃないの? これぐらいの年頃ならポークビッツぐらいのサイズに決まっているぢゃない』 今日の今日までその認識に変わりは無かったのであるが。 「ほ、本当だったのね――あの過大な描写はっ」 そう呟いたのが精一杯であった。 こんな所も同好の士であるが故に良く似ていると言えようか。 既に意識を失って倒れているレイと同じ様に、尋常ならぬ赤い鮮血を鼻孔から放ちつつ、仰向けに倒れたアスカであった。 こうして、一気に時期を短縮し、決行しようとしたアスカの野望は、はかなくも潰えてしまったのである。 余談であるが、全裸で、しかも大の字に倒れてしまった少女二人をシンジが放置できる筈もなく、その幼い身体を懸命に駆使して、二人を脱衣所まで運び、丁寧にバスタオルで身体を拭いて、そしてきちんと浴衣まで着せる事が出来た事を補足しておこう。 健全な少年にとって、ぐったりと力の抜けてしまった裸身の少女を運ぶ行為が、その労力は勿論のこと、精神的にもかなりの苦行であった事は言うまでもあるまい。 さて、明けて翌朝。 ようやく意識を取り戻したレイは、おもむろに懐から“碇くん観察日記”を取り出し、この3文字を追記したのであった。 “規格外” おそらくは――その印象はアスカもまた同様であろう。 ある意味それは、ショタコン・アスカさんの遠大な野望の成就に向けて、法律やら条令の壁よりも、遥かに大きなハードルとなるのかもしれない。
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